まず23日に行われた沖縄全戦没者追悼式で登壇した安倍晋三が、会場で「帰れ!」などと多くの野次を受けた。海外では大きく報じられたが、国内のマスメディアには目立たない扱いをされた。NHKは報じなかったし、朝日新聞は1面で報じたものの、あろうことか自民党沖縄県連の人間のコメントを添えて、野次を否定的に扱った。
ネットでも、(私は普段あまり読まないけれども)日頃から精力的に記事をアップしている点では一目置いていた「リベラル」のブログ(私がしばしば言及するのとは違うブログ)までもが沖縄の野次を批判したり、『kojitakenの日記』にも、ネトウヨどころか普通の右翼でもないと思われるコメンテーターから野次を批判するコメントが寄せられるなどした。これには驚いた。
後者は、まず「野次はいけない」というドグマ(教義)ありきの反応だった。なんでも、かつて見学した地方議会の質疑で野次は飛ばなかったのに感心したというのだが、まずそれ自体間違った一般化である(国会でも全会一致で可決される法案の方が与野党対立の法案よりもが多いが、前者が審議される時に不必要な野次が飛ぶとは思われない)ということもあるが、それ以前に、国会の質疑で野次を飛ばす(たとえば)安倍晋三と、その安倍晋三に野次を飛ばした沖縄の人たちとの非対称な関係を全く考慮していないことに、根本的な誤りがある。
つまり、安倍晋三とその政権が権力(暴力)をもって沖縄の人々を蹂躙しているという厳然たる事実があり、沖縄の人たちが安倍晋三に飛ばした野次は、それに対する抗議なのである。どんなに控えめな言い方をしても、沖縄の人たちは平和的生存権を脅かされているし、この先安保法案が可決成立でもすれば、「平和的」のつかない生存権そのものも脅かされることになる。このシチュエーションにあって、なぜ抗議する側に「行儀の良さ」が強要されなければならないのか。私には全く理解不能である。
問題は、そういう非対称な関係であってもなお、権力に抗う側に「行儀の良さ」を求める「リベラル」ブロガーや市井の人たちのあり方が、安倍晋三やその一派のやりたい放題を許していることである。
沖縄の「野次」問題の余波もおさまらないうちに起きたのが、安倍晋三の自民党総裁選再選を後押ししようと自民党内の極右議員たちが「文化芸術懇話会」なる「勉強会」を立ち上げ、その初回に「『殉愛』騒動」で作家生命が絶たれたとばかり思い込んでいた、あの極悪非道の外道作家・百田尚樹を呼んで講演させ、百田が出席者の「若手議員」ともども「表現の自由」や「報道の自由」に公然と宣戦布告したとしか言いようのない暴言を次々と繰り出す騒動を引き起こした。
ネトウヨが国会議員に成り上がったような、およそ「文化」や「芸術」とは縁がないと思われる連中が「文化芸術懇話会」などという名前をよくもまあ恥ずかしげもなく使うよなあと呆れたが、案の定というべきか、彼らにとっての「文化」や「芸術」とは百田尚樹の「小説」程度のものなのだ。それだけでも彼らの知的レベルがうかがい知れて、さもありなんと思わされるが、笑いごとですまないのが百田及び自民党の極右議員たちの暴言である。
たとえば百田は、沖縄タイムスの要約を引用すると、「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」、「普天間飛行場は田んぼの中にあり商売のため周囲に人が住みだした」、「騒音のうるさい場所を選んで住んだのは誰か」、「基地の地主は大金持ち。年収何千万円で六本木ヒルズに住んでいる」、「沖縄は本当に被害者なのか」などと発言した。
また朝日新聞デジタルには、百田が同じ会合で「沖縄県人がどう目を覚ますか。あってはいけないことだが、沖縄のどっかの島でも中国にとられてしまえば目を覚ますはずだ」、「沖縄の米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い」、「政治家というのは、理念、信念、大事ですが、言葉が大事だ。戦争と愛については何をしても許されるという言葉があるが、政治家もある程度『負』の部分はネグったらいい。いかに心に届くか。その目的のためには多少……もちろんウソはダメですが」などとほざいたことを伝えている。
同じ朝日新聞デジタルの記事には、自民党の3議員の暴言の要旨も出ている。以下これを引用する。
まず大西英男(東京16区、当選2回)は、「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」と言った。
また井上貴博(福岡1区、当選2回)は、「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、スポンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることが分かった」と言った。
さらに長尾敬(比例近畿ブロック、当選2回)は、「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。先生なら沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」と言った。
自民党の3議員及び百田の暴言は、日本国憲法第21条で保障された「表現の自由」に公然と挑戦する以外の何物でもない。野党が激しく反発するなど、大きな騒ぎになった。
自民党で火消し役を務めているのは谷垣禎一である。谷垣は、「文化芸術懇話会」(笑)を主宰した、やはり極右議員として知られる自民党青年局長の木原稔(熊本1区、当選3回=2005年衆院選初当選の「小泉チルドレン」。2009年には落選)を更迭したうえ、1年間の役職停止処分を下した。余談だが、最初にニュースでこの男の名前に接した時から、実にいけ好かない野郎だと思っていたがその理由がわかった。極右の某先輩衆院議員と同じく、名前が「き××みのる」なのだ(笑)。
谷垣禎一による自民党議員の処分に戻ると、谷垣は大西英男、井上貴博、長尾敬の「言論弾圧三兄弟」についても「厳重注意」の処分を下した。
呆れたことに、これに対して自民党の議員どもから猛反発の声が挙がっているらしい。今朝(6/29)の朝日新聞に報じられていた。その詳細についてはこの記事と並行して書いた『kojitakenの日記』の記事「自民党の極右議員、木原稔らの処分に「恐怖政治」と猛反発(呆)/幕引きを図る谷垣禎一にも呆れ返る」に書いたので、詳しくはそちらを参照されたい。
『kojitakenの日記』にも書いた通り、この件では、跳ね上がりの自民党極右議員どもに対する以上に、議員たちの処分をもって騒動に幕引きして、「粛々と」安保法案を成立させようとしている谷垣禎一のふざけた態度を糾弾しなければならない。
とにかく、安保法案の成立など絶対に許してはならない。
今回の安保法案については、長谷部恭男や小林節といった保守派の憲法学者たちによって議論の火がつけられた。これを機に、一挙に廃案、そして安倍政権の打倒に持って行かなければならない。細かいことを言えば、長谷部恭男や小林節の議論にも懸念されるところはあるのだが、今は、安保法案の廃棄に向けて力を集中すべき時ではないかと考える今日この頃である。
そもそも中間搾取を行うだけの派遣業者なる企業は、一般的には社会悪とみなされて当然の存在だろう。だから1985年までは原則として禁止されてきた。デフレ経済下で労働者派遣の規制緩和が進んだが、それは既成事実になっているから人々に受け入れられているけれども、なぜそんなことが可能だったのか、その機構を説明することは実は容易ではない。普通に考えれば、中間搾取が入ればその分だけ人件費が高騰するはずだからだ。しかるに派遣労働の解禁で人件費の削減が進んだ。中間搾取込みでも人件費が安くなることを考慮すると、派遣労働者が手にする賃金がいかに少ないかがわかる。かつて雨宮処凛が本に書いたと寸分違わない、派遣労働者による窃盗事件は、私がかつて勤めていた企業でも起きた。
そういうことを考えると、東京の中央線沿線や阪神間などの「戦争には反対するが格差や貧困には無関心な『リベラル』」が、たとえばかつて第1次安倍内閣の「公務員改革」を絶賛した古賀茂明なんかをいつまでももてはやしているようでは、安倍政権や自民党を倒せる日はいつまで経っても来ないのではないかと思わされる。
都市部の「リベラル」は、その本領であるはずの「戦争反対」でも無気力を見せていた。毎週のように槍玉に挙げている姜尚中がその代表例である。姜が「消化試合」という自らの妄言を撤回したという話は聞いたことがない。
6月4日に3人の憲法学者が発した「安保法案は『違憲』」という意見で、安保法案をめぐる議論の「潮目が変わった」とも言われているが、安保法制に反対する側が優勢になるにはほど遠い。野球の試合にたとえれば、6回表まで5点をリードされた試合の6回裏に1点を返したもののそれに続く満塁のチャンスを逸してしまい、7回からの残り3イニングで4点差を逆転しなければならない試合展開というのが私の見立てである。
国会の会期は延長されるらしい。最初に9月までの大幅延長の見通しを報じたのは確か読売である。いまや政権の広報紙と化した読売の政局記事は当たることが多いが、それを意識したか、朝日も9月下旬までの会期延長を報じている。しかし、仮にそうなったところで、安保法案も時間をかけて審議されると考えるのはあまりにも甘い。安倍政権は必ずや維新の党の橋下一派を巻き込んで、唐突に勝負手を打ってくる。それを覚悟しておかなければならない。
最終的には安倍政権を潰すところまで行かなければこの戦いには勝てない。総理大臣の権限が一般に思われているよりもずっと強大であることは、2009年の政権交代の3年前からブログを書きながら見てきたからよくわかる。
安倍政権を潰すためには内閣支持率を下げなければならないが、各メディアが発表する6月の安倍内閣支持率は、5月と比較して2〜3ポイントしか下がっていない。それでも、報道機関によっては第2次以降の安倍内閣支持率としては最低を記録したとかで喜んでいた「リベラル」がいたが、誤差範囲内の「記録更新」でしかないのが現実だ。
「リベラル」の視野が狭すぎるのである。上記の「戦争には反対するが格差や貧困には無関心な『リベラル』」では広範な支持は絶対に得られないし、一方に存在する「経済政策に賛成だから政権を支持する」とする一部の「リフレ派」(「金融左派」といえなくもない)に至っては、経済政策の全体像さえ視野に入らない恐るべき視野狭窄と断じるほかない。安倍政権の経済政策で買えるのは、不況期に財政の積極策と金融緩和を組み合わせるという、教科書通りの政策をとった点だけである。財政政策の中身は高度成長期的な公共事業偏重でしかないし、一方でインフレ政策をとりながら、労働者派遣法改悪などという紛れもない「デフレ政策」を行って経済政策の効果を自ら打ち消す愚行をやらかしているのである。労働者派遣法改悪もまた、まぎれもない「何とかノミクス」の一環であるという厳然たる事実を、(一部の)「リフレ派」は直視しなければならない。
そういえば長谷川幸洋も「リフレ派」の一人だった。もっとも長谷川は、第1次安倍内閣の「公務員改革」を古賀茂明と同様に絶賛していたうえ、労働者派遣法改悪にも賛成しているから、それはそれで首尾一貫しているといえるかもしれない。長谷川は安保法案にも大賛成で、学者の言うことなど聞く必要は一切ないと放言している。そんな長谷川は「誰それはマンデル・フレミングも理解していない」などと論評することがあるらしいが、長谷川幸洋とは経済学者の専門知は尊重すべきだが法学者の専門知は蹂躙して然るべきという、常人には理解不能の思想を持っている人間らしい。
東京新聞(中日新聞社)はいつまでそんな社員に高給を払い続けているのかと怒り心頭に発する今日この頃なのである。
昨日(6/14)、TBSテレビで放送された『サンデーモーニング』に出演していた姜尚中は、その典型のような人間だ。
先々週(5/31)の同じ番組で、姜は安保法案の国会審議を「消化試合」にたとえた。はなから諦めているような態度だった。
そのわずか4日後、自民党推薦の長谷部恭男を含む3人の憲法学者が安保法案を「違憲」と判定して以来、急に国会内外で議論が活発になった。
既に指摘されていることだが、長谷部恭男ら憲法学者は、安倍晋三を指して「王様は裸だ」と言ったのだ。
憲法学者が「安保法案は違憲だ」と言う前、5月20日の党首討論で、安倍晋三は安保法案について「法案についての説明はまったく正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」と抜かした。「まったく正しい」という言い方自体、日本語の文法から外れているが、「俺が総理大臣だから正しい」とは、子どもの喧嘩でガキ大将が言い放ちそうなセリフだ。安倍は、「野党のくせに生意気な」という、「ジャイアン論法」を使っていた。2007年にドラえもんの道具にやられて敗走するスネ夫さながらの情けない姿を安倍晋三が晒したことを覚えている私は呆気にとられたが、安倍は「決められる政治を進める強いリーダー」の自画像に酔っている観があった。
そこに「王様は裸だ」と言ったのが長谷部恭男だった。これで安倍のペースが乱された。しかし、憲法学者の一言でようやく議論が盛り上がるまで安倍に押されっ放しだったことは、あまりにも情けない。とりわけ腹が立つのは、「消化試合だ」と評した姜尚中に象徴される「リベラル」の無気力だ。
TBSなどを見ていると、いかにも国会論戦が長期化しそうなことを岸井成格あたりが言っているが、これに対しても、まだそんな甘い認識でいるのかと腹が立つ。安倍晋三の手法はいつでも急戦であり、力による強行突破だ。馬鹿の一つ覚えみたいにそれを繰り返す。一昨年の特定秘密保護法の時もそうだったし、古くは第一次安倍内閣時代の2006年、教育基本法を改悪した時もそうだった。あの時安倍によって改悪された教育基本法は、腹立たしいことに今もそのままだ。安倍晋三とは、小沢一郎にも似て力による強行突破で既成事実を作ることが政治を自らの思うように進めるためにもっとも有効であることを熟知している人間だ。「剛腕」とは小沢一郎に用いられる言葉だが、私は以前から小沢一郎より安倍晋三に当てはまる言葉だと考えている。安倍晋三とは頭脳はなく、ひたすら力に頼る政治家なのである。
安倍晋三が強行突破を図る時に巻き込むのは、いうまでもなく維新の党である。昨日(6/14)、安倍晋三は橋下徹と会談した。維新の党の大阪組を使って、まずは労働者派遣法の改悪を、「与党単独採決」ではない形で強行し、次いで安保法案でも維新に対案を出させた上で同じ手を使う。安倍晋三はあくまで急戦を仕掛けてくる。もう時間はない。だから対抗する側としては、怒りのエネルギーを早いところピークに持っていかなければならない。
そんな時に、安倍っちは超保守だから、砂川事件の最高裁判決を集団的自衛権行使容認とみなす高村氏のレアな論法を理解できないのだ、などという、いつもと変わらぬ緊張感のない文章を読まされると腹が立つのである。砂川事件の最高裁判決は高校で習ったが、それ自体授業で教師が厳しく批判した対象だった。「統治行為論」こそ最高裁判決の肝であり、最高裁は憲法判断を避けたのだ。それを集団的自衛権行使容認の根拠として使うとは、岸井成格に言われるまでもなくトンデモも良いところであり、安倍晋三ならずとも誰も理解できない。目を血走らせて、同じ政党に属する村上誠一郎に向かって「砂川判決を読んでないだろ」と言い放ち、村上氏に「謝れ」と謝罪を要求される高村正彦は、安倍晋三以上に「イッちゃってる」狂気の政治家だ。なぜそう正しく指摘せず、高村に対する攻撃の手を緩めるのか。今回の安保法案では、安倍晋三以上に高村をターゲットにしなければならないところではないか。
また、このあと安倍晋三に協力することが確実な橋下徹についても、これまで橋下に甘い顔をしたり取り込まれたりしてきた「リベラル・左派」側の数々の人間に対する怒りがこみ上げる。絶対勝てる2009年の衆院選前にさえ、橋下に熱烈なラブコールを送ったのは鳩山由紀夫や小沢一郎だった。菅直人も比較的短い期間だったとはいえ、一時秋波を送った。小沢一郎はラブコールを送る期間が長かった。「脱原発」で名を売った飯田哲也は、もろに橋下に取り込まれた。「脱原発に頑張る橋下市長を応援しよう」というフレーズで橋下を応援した左翼人士がいた。「立憲主義を理解している橋下くんを、自民党の立憲主義を理解しない改憲案に対抗する勢力として活用したい」と書いた「リベラル」のブロガーもいた。最近では、湯浅誠が橋下に甘い顔をした。これから、そのしっぺ返しを受ける。
何より、敵は必ずや急戦を仕掛けてくる。国会での審議は、TBSの番組で岸井成格が予想するほどには長くならない。今怒らずしていつ怒るのか、そういう時だ。一人一人の力などたかがしれているかもしれないが、連鎖反応で力を増幅することができるはずだ。ひとたび安保法制が成立し、労働者派遣法が改悪されてしまえば、簡単には元に戻らない。これまで国会で成立したり改悪されたりした悪法がその後どうなったか、調べてみるまでもなく答えは明らかだ。
今われわれは、安倍政権に対する怒りを爆発させるべき時期にある。
無気力だったのは姜尚中だけではない。全国紙は当日の夕刊ではどの新聞もこの件を取り上げなかった。衆院憲法審査会が開かれたのは午前中だったにもかかわらず、読売はもちろん、朝日や毎日も4日の早い時点では大きく取り上げるべきニュースだと認識していなかったということだ。
毎日は5日付一面トップ、朝日は同じく一面の、但しトップではなく左肩の位置で報じたが、東京新聞をはじめ通信社の記事配信を受けた地方紙の多くが取り上げたことと比較して、毎日や朝日のダメさ加減が今回も目立った。
一方、法案可決を推進する立場の読売は5日付でも4面に3段と地味な扱いだった。読売の読者の中にはこのニュースを知らない人間も少なくないのではないかと思われる。しかも読売は、衆院憲法審査会の参考人質疑の記事のすぐ下に安保法案に関して国会で質問した民主党衆院議員・後藤祐一が泥酔してタクシーの運転手に絡んで警察官のお世話になったという記事を載せていた。
読売は、ことさら衆院憲法審査会の参考人質疑の記事を小さく、目立たないように扱うことによって、その意義を矮小化しようと工作する一方、なぜかそのように邪険に扱った参考人質疑を6月6日付の社説で取り上げた。
その社説がまた酷い代物だった。私はブログ「Everyone says I love you !」の6月7日付の記事「これだけ読売新聞が社説で焦るのは潮目が変わりそうだから『集団的自衛権 限定容認は憲法違反ではない』」でこの読売社説を知った。
読売の社説は下記のように結ばれている。
看過できないのは、政府提出法案の内容を否定するような参考人を自民党が推薦し、混乱を招いたことだ。参考人の見識や持論を事前に点検しておくのは当然で、明らかな人選ミスである。
法案審議は重要な局面を迎えている。政府・与党は、もっと緊張感を持って国会に臨むべきだ。
(読売新聞 2015年6月6日付社説より)
おいおい、と言いたくなる。
「人選ミス」というと、「3人全員『違憲』」に泡を食った産経の記事が直ちに思い出される。産経はその記事にこう書いている。
関係者によると、自民党は参考人の人選を衆院法制局に一任したという。ただ、長谷部氏は安保法案に反対する有識者の団体で活動しているだけに調整ミスは明らか。「長谷部氏でゴーサインを出した党の責任だ。明らかな人選ミスだ」(自民党幹部)との批判が高まっている。
(産経ニュース「与党参考人が安保法案『違憲』 “人選ミス”で異例の事態 野党『痛快』 憲法審査会」 2015.6.4 18:51 より)
前記「Everyone says I love you !」を参照すると、発言の主は自民党国会対策委員長の佐藤勉らしい。確かに、NHKは下記のように報じている。
自民 参考人選びは政府与党方針踏まえて
自民党の佐藤国会対策委員長は、各府省庁の国会対応の責任者を急きょ集め、衆議院憲法審査会で、与党などが推薦した学識経験者が、安全保障関連法案は憲法違反にあたるという認識を示したことを受けて、今後、各委員会で参考人を選ぶ際には、政府与党の方針を踏まえて、細心の注意を払うよう指示しました。
自民党は、4日に行われた衆議院憲法審査会の参考人質疑で、安全保障関連法案を巡って、与党などが推薦した学識経験者が「憲法違反にあたる」などと、政府与党の見解と異なる認識を示したことを受けて、急きょ、各府省庁の国会対応の責任者を集めました。
この中で、佐藤国会対策委員長は、「私の責任でもあり、不徳の致すところだ。緊張感の欠如と言わざるをえず、よく注意すれば、未然に防げたはずだ」と指摘しました。
そのうえで、佐藤氏は、「各委員会で参考人質疑を行うにあたっては、党の国会対策委員会ともよく相談をしたうえで決めてほしい」と述べ、今後、各委員会で参考人を選ぶ際には、政府与党の方針を踏まえて、細心の注意を払うよう指示しました。
(NHKニュース 2015年6月5日 12時22分)
確かに、読売の社説は佐藤勉の言葉をそのままパクったとしかいいようがない。しかし佐藤は日本大学工学部土木工学科の卒業であり、法律の専門家でも何でもない。そんな佐藤の言い分を産経は垂れ流し、読売に至っては「安保法制『合憲』論」を強弁する社説でそのまま佐藤の言葉に乗っかった駄文で結んでいる。そこには専門知に対する敬意も何もなく、その姿勢は不遜きわまりない。産経の記事や読売の社説は、右翼マスコミによる暴走以外の何物でもないといえる。自民党の意見に合うようなことを述べる憲法学者など、極右として悪名高い西修、百地章、八木秀次の3人くらいしかいないと言われている。3人は憲法学界の「異端」である。
安倍晋三が横車を押し続けられるのも、こんな読売(・産経)及びその系列のテレビ局などのバックアップがあるからだ。読売系の放送局である大阪の読売テレビは、辺見庸の言葉を借りれば、橋下徹という糞を放(ひ)り出したテレビ局である。辛坊治郎などという悪の権化ものさばっている。読売の悪逆非道は、何も交流戦でソフトバンクに本拠地で3連敗した(ざまあみろ)プロ野球球団に限らないのである。むしろジャイアンツなど(私にとっては腹立たしいけれども)まだかわいいもので、真の巨悪は読売の政治部や論説室であるといえる。
問題は、議論が盛り上がり「潮目が変わった」と思わせる情勢ではあるけれども、現在はまだ、攻める側が姜尚中のような、それこそ緊張感のない態度をとり続ければ、今月下旬には強行採決で安保法制が衆議院を通過する情勢に変わりはない。やっと反攻のきっかけをつかんだ程度の状態であり、野球の試合にたとえれば中盤戦で3,4点リードを許している戦局だ。ここから逆転勝ちに持って行くのは容易ではない。
たとえば公明党は「平和の党」を標榜する政党でありながら、ふざけたことに自民党と安保法制成立で合意をしているため、今回の参考人質疑で副代表の北側一雄が参考人の学者たちに「『憲法9条の下でどこまで自衛措置が許されるのか突き詰めて議論した』と理解を求め」る(前記産経の記事より)というぶざまな役割を担わされた。おそらく党内にも支持母体の創価学会にも欲求不満がたまっているだろう。その公明党を切り崩すくらいの政治工作が求められるのではないか。
また、おかしな情勢になっているのは安保法制だけではない。労働者派遣法も、維新の党の裏切りによって今国会の可決成立が確実視される情勢になっている。以下、毎日新聞の記事を引用する。
改正派遣法:今国会で成立へ…維新、採決受け入れ
政府・与党が重要法案と位置付ける労働者派遣法改正案が5日、今国会で成立する見通しとなった。自民、公明両党が、維新の党が目指す「同一労働同一賃金」の議員立法を新たに共同提出して可決することを見返りに、維新が改正案の採決に応じる方針を固めたためだ。与党は今月中旬にも、衆院厚生労働委員会で派遣法改正案を採決する考えだ。
改正案は、法案作成ミスなどから2度廃案となり、今国会でも日本年金機構の情報流出問題で審議が中断している。企業が派遣労働者を受け入れる期間の制限を事実上撤廃する内容だ。「臨時の仕事」と位置付けられてきた派遣労働の性格が変わる可能性があるため、労働組合や民主党、共産党などが強く反発している。
民主、維新、生活の党は先月下旬、改正案の対案として、同じ労働なら非正規労働者にも正規と同じ賃金を支払う同一労働同一賃金法案を共同提出した。一方で維新は、自民党との修正協議を続けてきた。
自民は5日までに維新に対し、同一賃金法案に「法律の施行後3年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講ずる」との文言を盛り込んで再提出し、可決することを提案。維新も同一賃金の実現に向けて前進があったとして、厚労委で派遣法改正案の採決に応じることを決めた。企業への同一賃金の義務づけなど必要な法制上の措置は今後の検討課題にとどまるため、実現するかどうかは不透明だ。
与党側は、野党が欠席する中で改正案を強行採決すれば、安全保障関連法案の審議にも悪影響を与えかねないと懸念。維新の採決出席を探ってきた経緯があり、派遣法改正案では野党の分断に成功した形だ。維新は採決に出席するものの、改正案によって「派遣雇用が増える可能性がある」として反対する見通しだ。【阿部亮介、福岡静哉】
毎日新聞 2015年06月06日 02時30分(最終更新 06月06日 03時54分)
民主党と、生活の党と山本太郎となかまたちの両党は、維新の党の裏切りに顔を潰された形である。橋下徹(と江田憲司)が共同代表を退いて代表が松野頼久に代わったところでこの政党の体質は何も変わっていないというほかない。もっとも山本太郎は「鼻をつまんで維新に投票」せよと呼びかけていたらしいから、山本や生活の党や民主党の責任も小さくない。
弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表の佐々木亮氏は、維新の判断の意図を訝る。以下、佐々木氏が「Yahoo! ニュース」に書いた記事「やばい!維新の党が徹底審議の方針を転換したため派遣法改悪案が衆院通過の危機!!」(2015年6月7日)から引用する。
素人目に見ても「無理筋」な政治取引に応じてしまった維新
しかし、この維新の党の姿勢には首を傾げざるを得ません。
維新の党は、労働政策について、掲げています。同一労働・同一条件の徹底により、正規雇用と非正規雇用の垣根の解消。(出典:維新の党「基本政策」)と
これが維新の党の基本政策ですから、この政策の実現の確約が取れたというのであれば、与党と妥協する政治もあるのだろうと理解できます。
ところが、報道によると、今回は「施行後3年以内に法制上、財政上、税制上の措置」などを講じるとの文言を入れることで満足してしまったといいます。
言うまでもありませんが、同一労働同一賃金を実現するためには、使用者にそれを義務づけしないといけませんが、これについては「企業への同一賃金の義務づけなど必要な法制上の措置は今後の検討課題にとどまるため、実現するかどうかは不透明だ。」と毎日新聞が報道するとおり、全く確約は取れていません。
私は政治の世界の駆け引きについては全くの素人ですが、素人目に見ても、この程度で妥協するのは、維新の党はいいように与党に利用されているだけにしか見えません。
反対するのなら徹底審議の姿勢を崩しては筋が通らない
維新の党は採決では反対する姿勢は崩さないようです。
反対するほど問題のある法案だという認識があるのでしたら、最後まで徹底審議して、抵抗するのが筋だと思います。
そもそも、これでは派遣法案成立推進派からも支持されませんし、もちろん、反対派から見れば、成立に手を貸した「戦犯」であり、やはり支持を得られません。
誰得なの?と思わざるを得ません。
少なくとも維新の党に支持が集まる政治姿勢とは言えません。
もっとも、維新の党といえども一枚岩ではなく、いろいろな考えの議員がいるものと思います。
維新の党の良識ある議員は、この派遣法案の成立にこういう形で手を貸すことについてどう思っているのでしょうか。
今からでも遅くありません。引き返す勇気も必要です。
もう一度、徹底審議の構えをとってほしく思います。
(佐々木亮「やばい!維新の党が徹底審議の方針を転換したため派遣法改悪案が衆院通過の危機!!」(Yahoo! ニュース 2015年6月7日 8時45分)より)
いうまでも私は維新の党が大嫌いだが、維新の党利にもならない方針転換を元に戻させる努力は確かに必要だろう。政府与党とそんな妥協をしても損をするばかりだと維新の政治家たちに思わせるためには、労働者派遣法の改悪に反対する世論の盛り上がりが必要だと思う。
他に普天間基地の辺野古移設や川内原発再稼働など、安倍晋三とその政権が悪行の限りを尽くそうとしているこの夏、それらすべてをなぎ倒すという強い意志が反対勢力には求められる。
姜尚中のごとく、「消化試合」などと言って諦めていてはならないのである。
明らかに自衛隊員が戦死するリスクが格段に増える上、東京(中日)新聞の編集委員兼論説委員である半田滋氏の指摘を参照すると、「国家総動員体制」が明記されている。
既に広く報じられている通り、安倍晋三とその内閣がもくろんでいるのは、戦後の安全保障政策の転換そのもので、かつ日本国憲法9条の「骨抜き」そのものであり、安倍晋三はそれを「4月にアメリカで約束してきたから」と、強引に押し通そうとしている。国会の答弁では、防衛相の中谷元が指名された質問に勝手に答えたり、野党議員が飛ばす野次に文句をつけておきながら自らが下品な野次を飛ばすという悪行を次々と連発している。ここまで品性下劣な総理大臣は見たことがない。
だが、いくら「リテラ」が「安倍晋三は小学生時代から嘘つきだった」と書こうが、山口二郎が「安倍の頭は、安保法制の審議に耐えられるだろうか」と毒づこうが、安倍が約4割の国民から支持を受け、自民党は昨年の衆院選の比例代表選で有効投票数の約3分の1の得票を得ている事実は動かない。
山口二郎に対しては、山口が推進した「政治改革」の総括をどの程度しているのかは知らないが、その責任を棚に上げて何を白々しくと、また野田政権時代に自民党と一緒に「決められる政治」を求めてきた朝日や毎日に対してはブーメランだろうが思う。
さらに過去に山口二郎と一緒に推進した「政治改革」で小選挙区制導入の先頭を切ったり、自民党から自由党時代にかけて、特に小渕政権時代の1999年にタカ派法案導入に貢献したりした小沢一郎を応援し、最近では孫崎享(や矢部宏治)にいとも簡単に騙されて政治家を「自主独立派」と「対米従属派」に分けて岸信介が前者に属するとの妄言を受け入れた「小沢信者」をはじめとする「リベラル」に対しては…、いや、それはこれまでにも何度となく書いてきたからこれ以上は書かないでおこう。
しかし、いくらこれまでの「リベラル・左派」のふがいなさが現状を招いた面も少なくないとはいえ、姜尚中のように国会の審議を「消化試合」(5月31日のTBSテレビ「サンデーモーニング」での発言)と決めつけて戦意を喪失しているようでは安倍晋三の思う壺である。とはいえ私には影響力も何もないから、こうしてネットで悪態をつくだけではあるのだが。
さらに、安保法制以外にも、安倍晋三とその政権がやろうとしている悪行は山ほどある。安全保障絡みでは辺野古湾の埋め立てもそうだ。
労働関係では、第1次安倍内閣失速が最初に測定されるきっかけを作った「ホワイトカラー・エグゼンプション」の形を変え、一部の労働者を労働時間規制の適用除外にする「高度プロフェッショナル制度」の新設を柱とした労働基準法の改変を行おうとしている。この法案に関して厚労相の塩崎恭久が企業の経営者たちに対して実にふざけた説明をしていたことが4月24日に共同通信に報じられている。
http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=65366
厚労相「とりあえず通す」 残業代ゼロの労基法改正案 経営者向け会合で
一部の労働者を労働時間規制の適用除外にする「高度プロフェッショナル制度」の新設を柱とした労働基準法改正案をめぐり、塩崎恭久厚生労働相が経営者らの出席した会合で、経済界に制度拡大を求める声が強いのを受け「ぐっと我慢していただいて、とりあえず(法案を)通すということで応援してほしい」などと発言していたことが24日、分かった。共同通信に関係者が明らかにした。
制度の対象者は年収1075万円以上。経団連などは「対象者が少なすぎる」として拡大を求め、労働側は「残業代ゼロ」と反発している。この日の衆院厚労委員会で発言の趣旨が取り上げられたが、詳しい内容が明らかになったのは初めて。民主党議員は「法案が通れば広げるから、通るまでは静かにしろという意味ではないのか」と追及し、塩崎氏は否定した。
関係者によると、塩崎氏は会合で「ものすごく少ないところでスタートするが、『小さく産んで大きく育てる』という発想を変えて、健康は守ってクリエイティビティーを重んじる働き方をやってもらうことで、とりあえず入っていく」と説明。
その上で「経団連が早速1075万円を下げると言ったから質問がむちゃくちゃきました。それはぐっと我慢していただいて、とりあえず通すということで、応援してもらえると大変ありがたい」と述べた。
改正案は今国会で審議入りする見通しで、与野党の対決法案の一つ。塩崎氏は厚労委員会で「経済界が(年収要件を)下げろと言っていることには不快に思っている。私の頭に(要件を下げることは)全くない。今の法案通りに通すのが私の責務だ」と答弁した。
会合は20日朝、東京都港区のホテルで「公益社団法人日本経済研究センター」がメンバー企業の社長による朝食会として開き、約100人が参加。塩崎氏は社会保障を主なテーマに講演し、終盤に労働問題に触れた。
(共同通信社=2015.04.24)
なお、この労働基準法改悪を批判する際の用語として、「残業代ゼロ法案」というより「定額働かせ放題法案」と呼ぶ方が適切ではないかと私は考えている。
労働関係の法案では、昨年二度目の廃案となった労働者派遣法の改悪案も3月13日に提出されている。労働の緩和規制もなんちゃらノミクスの一環だそうだが、なんちゃらノミクスの名前を冠して「安倍政権の経済政策」をほめそやす論者たちには、その名前をつけて褒め言葉を呈することが労働の規制緩和にも賛成することと同じであることが理解できないようだ。許し難い知的不誠実ぶりというほかない。労働の規制緩和は日本経済を活性化するどころかその効果は正反対であり、日本の労働者を疲弊させ、国の経済力を衰えさせる以外の結果にはならない。
また、安倍政権は原発の再稼働にも執念を燃やしている。
日本の全都道府県で揺れを感じたという土曜日(5/30)の八丈島の地震は、私の住む地域では震度4で、地震発生当時スーパーの3階にある本屋にいたのだが、揺れの強さに肝を冷やした。同じ日には、屋久島の近くにある口永良部島で火山(新岳)が噴火し、住民が全員屋久島に避難した。
東日本大震災以来、日本列島が(石橋克彦の言葉を借りれば)「大地動乱の時代」に入ったと思う人は少なくないと思うが、安倍晋三はひたすら再稼働をゴリ押ししようとしている。7月下旬にも再稼働との見通しが報じられている川内原発のある九州南部は、噴火した口永良部島を含め、とりわけ火山活動の活発な地域だ。
今のように安倍晋三とその政権をいつまでも野放しにしていると、日本全体が「政治・経済・社会大動乱の時代」に入ってしまい(いや、もう既に入っていると考えるべきだろう)、後世に大きな禍根を残すことは間違いない。
しかし、現時点で既に惰性は十分大きくなってしまっており、マイルドにこれを止めることはとてもではないができそうにもないと、今月もまた悲観論に傾いてしまう今日この頃なのである。