とはいえ選挙は仲井真弘多の完敗ではあった。自民党に全くダメージがなかったとはさすがにいえないのだが、経済政策の成果が怪しくなってきて、安倍政権の人気がいつまで続くかわからない情勢を恐れてか、先週の記事にも書いた衆議院の解散総選挙が、にわかに現実味を帯びてきた。それも、安倍晋三が外遊中で日本にいない間に、着々と解散のレールが敷かれている、もちろん、安倍晋三は外遊先から指示を出していたに違いない。その安倍は今日(17日)帰国する。解散の日は19日とも21日ともいわれ、12月2日公示、12月14日投票という日程はほぼ確定という話だ。
その解散だが、これは安倍晋三の「自己都合解散」である。2005年に小泉純一郎がやった「郵政解散・総選挙」と少しだけ似ているが、小泉には曲がりなりにも「郵政民営化」という具体的な政策の目標があったのに対し、安倍晋三にはそれすらもなく、ただひたすら政権を延命した一心から出ていて、大義名分も何もない。これほど権力者のモラルの低さを感じさせる解散もないだろう。手前勝手な解散という点では、安倍の母方の祖父・岸信介のライバルであった吉田茂を思わせる。これはもはや「党利党略解散」ですらなく、やはり安倍晋三の「自己都合解散」としか言いようがない。
自民党執行部も安倍に負けず劣らずモラルの低い人間ばかりと見え、高村正彦など、「念のため解散」などというわけのわからないネーミングを披露して激しい批判を浴びている。私は以前から高村正彦を全く買わないのだが、見下げ果てた人間としか言いようがない。こんなのによく議員が務まるものである。
安倍晋三は一応、「三党合意の解消」を争点だと強弁すると見られる。長谷川幸洋という新自由主義者にして安倍晋三の御用ジャーナリスト(中日新聞・東京新聞の論説副主幹)は、「消費増税見送り解散&総選挙には大義がある」などと吼えている。余談だが、この長谷川幸洋は第2次安倍内閣成立以来、ずっと安倍晋三のブレーンである。そんなことも知らなかったおめでたい「小沢信者」がいたようなので、ここに強調しておく。
その長谷川は、こう書いている。
私は10月22日午後のニッポン放送『ザ・ボイス〜そこまで言うか』(書き起こしはこちら)で初めて解散総選挙の可能性を指摘して以来、このコラム(初報はこちら)や『週刊ポスト』の「長谷川幸洋の反主流派宣言」(抄録はこちら)、あるいは『たかじんのそこまで言って委員会』など、いくつかのテレビ番組でも一貫して「増税先送りから解散総選挙へ」というシナリオを強調してきた。
ついでに言えば『ザ・ボイス』や「反主流派宣言」では、景気の見方について日銀最高幹部の間で意見が割れている内幕についても指摘している。それからまもなく10月31日に日銀が追加緩和に踏み切ったのはご承知のとおりだ。強気派の黒田東彦総裁が敗北したのである。
マスコミには「追加緩和は消費増税の環境づくり」といった報道が相次いだが、それがまったくトンチンカンだったのは、増税先送りが確実になったいまとなってはあきらかである。(後略)。
(長谷川幸洋「ニュースの深層」2014年11月14日付「なぜ記者はこうも間違うのか!? 消費増税見送り解散&総選挙には大義がある」より)
これは、長谷川幸洋が政局を言い当てたというより、長谷川のシナリオに安倍晋三が乗ったというのがより真実に近いのではないかと私は勘繰っている。
長谷川は、「マスコミには「追加緩和は消費増税の環境づくり」といった報道が相次いだが、それがまったくトンチンカンだった」と書いているが、日銀総裁の黒田東彦は消費税率引き上げを前提に追加緩和を行ったと国会で答弁している。それは、前述の「小沢信者」氏が長谷川幸洋と一緒くたにした歳川隆雄という人が書いている。この人についてはよく知らないが、ちょっと調べてみたところでは「鵺」(ぬえ)的人物のように思われる。
日本銀行の黒田東彦総裁は12日午後の衆院財務金融委員会(委員長・古川禎久前財務副大臣)に出席し、維新の党の伊東信久議員の質問に対して「(10月31日に開いた金融政策会合で決めた追加緩和について)2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げを前提に実施した」と答弁した。
安倍晋三首相が消費税率8%を10%へ引き上げる再増税決断を行えるよう援護射撃として追加金融緩和を決めたという「告白」である。重大発言である。
急浮上した年内の衆院解散・総選挙報道があるにしても、金融政策を担う日銀のトップが財政政策の根幹に関わる消費再増税の実施を後押しするため「異次元緩和第2弾のバズーカ砲」を撃ったという黒田発言を、なぜマスコミ各社は報道しないのか理解に苦しむ。
(歳川隆雄「ニュースの深層」2014年11月15日付「黒田東彦発言は大問題、なぜ新聞・TVは報じないのか」より)
黒田東彦が「増税派」だったことはどうやら間違いないようだ。財務省が「増税派」であることは彼らにとって「歳入が命」であることを考えれば自明なので、安倍晋三は間違いなく成立するであろう第3次内閣において、これまでと同じように日銀や財務省と良好な関係を保つことは難しいのではないか。第3次安倍内閣は、絶えず「ポスト安倍」の名前が取り沙汰される政権になり、同時に中国や韓国に対する関係も、ネトウヨの期待する強硬姿勢を取り切れず、何よりも経済政策の失速によって、現在安倍晋三が皮算用を弾いている2018年までの超長期政権にはなりそうにもないというのが私の見立てである。ここで「超長期政権」と書いたのは、第1次と第2次で合わせて3年にもなる安倍政権は、現時点で既に分不相応で迷惑千万な長期政権であると考えているからである。
ところで、今年後半の政治日程が空白になっていて、どうもこの時期に安倍晋三が衆議院解散を仕掛けるのではないかとは前々から言われていたが、その名目を「消費税率再引き上げ見送りの信を問う」などというそれこそトンチンカンなものにすると安倍が決断したのは比較的最近だろう。私は安倍晋三が谷垣禎一を自民党幹事長に任命した時、安倍は消費税率を再引き上げするつもりだろうと思っていた。財務省も日銀(黒田東彦)も消費税率引き上げ派であることは明らかだったこともある。
しかし、長谷川幸洋もその一員である安倍晋三のブレーンも一枚岩ではない。安倍晋三へのご注進もその内容は様々で、中には予定通りの税率引き上げを進言した人もいただろう。安倍晋三が「消費税率再引き上げ延期」を選んだのは、単純に「その方が衆院選に確実に勝てそう」だからに過ぎない。
つまり、安倍晋三にとってはもともと「今年後半の衆議院解散ありき」だった。安倍晋三は強気に見えてその実、今後2年間の政権運営で内閣支持率を下げない自信など持っていないと思われる節がある。そこに「消費税率引き上げ延期を『争点』にして解散総選挙をやれば必ず勝てますよ」とご注進に及んだのが長谷川幸洋だったのではないか。もちろん、長谷川の他にも同様の進言をした人間は少なからずいただろう。それに安倍晋三が飛びついたというのが私の想像だ。
その結果、空前の「大義なき解散総選挙」がほぼ確実に行われることになった。「念のため解散」などという腹立たしいネーミングは、この解散の本質をよく表している。
安倍晋三を支持する右翼が多い2ちゃんねるを見ていると、解散話が現実味を帯びた当初、税率引き上げ延期の自民党と予定通りの税率引き上げを唱える民主党の戦いになって自民党の圧勝だ、とか、維新の党や次世代の党は現有勢力を維持するが民主党は議席を減らす、などといった、政治音痴に関しては「小沢信者」と「ネトウヨ」は本当にいい勝負だなあと思わせる好き勝手な書き込みが並んでいた。
民主党が税率引き上げを容認して税率再引き上げを「争点」から外すのは最初から見えていたし、現にそうなった。また、分裂を繰り返して小選挙区での勝ち目がなくなった小政党、たとえばみんなの党の党首・浅尾慶一郎は、古巣民主党との合流話を持ち出すありさまである。維新の党の江田憲司も、渡辺喜美とは反りが合わなかったが、海江田・浅尾連合となら組みたいと思っているであろう。一方、橋下徹や大阪維新系の議員は、間違っても民主党と組むつもりはないだろう。
以上から、今後衆院選が公示されるであろう12月2日までの間には、醜悪な数合わせ劇が繰り広げられることは確実だ。現在の民主党の代表が海江田万里ではなく小沢一郎であれば、その「剛腕」とやらの見せ場であったに違いない。全盛期の小沢なら、みんなの党と維新の党をそれぞれ割って、浅尾派と江田派を民主党に合流させてしまうくらいのことはやったかもしれない。
小選挙区制というのは、野党がそういうことをしなければ選挙に勝てない制度なのだ。つまり、少なくとも現在の日本において、小選挙区制とは政策・理念による政界再編成を阻害する選挙制度なのである。時たま「リベラル」系のブログで、政策や理念による政界再編成が起きればいいな、などと書かれているのを時折目にするが、本当にそれを求めるなら、小選挙区制を廃止して比例代表制中心の選挙制度を導入せよとの論陣を張るべきだと声を大にして言いたい。そして、その際には小沢一郎が小選挙区制を導入させたことに対する的確な批判が必要不可欠である。
どうやら消滅に向かいつつある「みんなの党」は、過激な新自由主義政党であって私は買わないが、唯一買えたのが同党の衆議院の選挙制度改革案(但し議員定数削減を除く)だった。以前にも書いたことが同党は事実上の全国一区の比例代表制を提言していた。「一人一票比例代表制」という。
この案を宣伝した同党の山内康一のブログ記事についたコメントは、多くが比例代表制を批判し、現行の小選挙区制を擁護していたが、これを見て呆れた私は、『kojitakenの日記』の記事「みんなの党・山内康一のブログのコメント欄に見る日本の有権者の不毛」(2013年4月6日)にこう書いた。
このように、トンデモコメントばかりで辟易してしまう。政治家のブログにコメントを投稿するのは、日本国民の中でも政治的意識の高い層の人たちだろうと思うのだが、それでもこの超低レベルだ。何よりひどいと思うのは、小選挙区制の現状を無批判に受け入れ、それに異を唱える者を「村八分」にしようという卑しい心根である。
断っておくが、私は過激な新自由主義政党である「みんなの党」や山内康一議員など全く支持しないし、同党の選挙制度改革案にしても、定数削減や一院制には大反対だ。ただ、同党が提唱する「一人一票比例代表制」の選挙制度には見るべきところが多いと評価しているだけである。
上記に列挙したようなコメントのように、自分と「世間」を同一化して、異論を封じ込めようとする人間があとを絶たない限り、日本という国はいつまで経っても良くならないだろう。
そして、今回も「野党がバラバラな今のうちに解散してしまえば確実に衆院選に勝てる」とみた安倍晋三の手前勝手な解散劇が間もなく起きようとしている。小沢一郎が導入させた小選挙区制が続く限り、同様の解散は今後も繰り返され、日本の政治をますますダメにしていくだろう。
mainichi.jp/select/news/20141110k0000m030021000c.html
安倍首相:北京到着 日中首脳会談「最終調整中」
【北京・松尾良、小田中大】安倍晋三首相は9日午後(日本時間同)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため北京を訪問した。滞在中に中国の習近平国家主席と会談する。首相は北京到着後、岸田文雄外相から8日の日中外相会談の報告を受けた。
これに先立ち、首相は9日午前、羽田空港で記者団に「私は日中関係を改善させたいと考えている」と語った。日中首脳会談については「最終調整中だが、実現すれば、偶発的な衝突を避ける海上連絡メカニズムを開始すること、国際社会の平和と安定に責任を持つ両国が関係を発展していくこと、そのメッセージを伝えたい」と述べた。
毎日新聞 2014年11月09日 20時04分(最終更新 11月09日 20時43分)
だが、日本では、安倍晋三の訪中よりも、年内の衆議院解散と総選挙があるかどうかでキナ臭くなっているようだ。すっかり安倍政権御用達のメディアとなった読売が報じている。
http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20141109-OYT1T50009.html
増税先送りなら解散、年内にも総選挙…首相検討
安倍首相が、来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げを先送りする場合、今国会で衆院解散・総選挙に踏み切る方向で検討していることが8日、分かった。
17日に発表される7~9月期の国内総生産(GDP)などの経済指標を踏まえて増税の可否を決め、解散についても最終判断する方向だ。首相は、こうした考えを公明党幹部に伝えたとみられる。年内に解散する場合、衆院選は「12月2日公示・14日投開票」か「9日公示・21日投開票」とする案が有力だ。
複数の政府・与党幹部が明らかにした。首相側近議員は8日、「選挙の争点はアベノミクスへの評価だ」と語った。
消費税は、2012年8月に成立した社会保障・税一体改革関連法で、〈1〉14年4月に8%〈2〉15年10月に10%――とすることが決まっている。経済情勢が悪い場合、増税を見送ることはできるが、法改正が必要だ。
(読売新聞 2014年11月09日 03時00分)
読売は、安倍晋三サイドの思惑を解説する不愉快千万な記事も載せている。
http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20141109-OYT1T50029.html
首相、早期解散に勝算…党内増税派けん制も
安倍首相が、消費増税を先送りする場合、年内に衆院解散・総選挙に踏み切る検討を始めた。
内閣支持率は、2閣僚の辞任後も一定程度あるため、首相は「勝算はある」(自民党幹部)と考えている。選挙で勝利すれば、予定通りの増税を求める与党内の勢力を封じ込めることも出来る――という判断だ。ただ、増税先送りは、国債の「信認問題」につながる可能性があり、危険なカケでもある。
「年内の衆院解散は大いにあり得る。年が明けると、4月の統一地方選が近づいてくるので、厳しい」
首相周辺は8日、衆院解散のタイミングについてこう解説した。首相は7日のBSフジの番組で「解散について首相に聞けば『考えていない』と言うのが決まりだ」とけむに巻いた。しかし、菅官房長官らと与党にとって最良の衆院解散時期を探ってきた。
衆院解散の時期についてはこれまで、年内解散の他に、〈1〉来年1月の通常国会冒頭〈2〉安全保障法制を整備した上で、来夏に解散〈3〉首相が来年9月の自民党総裁選で勝利し、余勢を駆って秋に解散〈4〉2016年の衆参ダブル選挙――などが候補としてあった。
しかし、通常国会冒頭では、4月の統一地方選に近く、地方議員が運動しにくい。夏の解散は、「安保法制という国民受けのしない政策の後では、厳しい」(自民党幹部)との見方もあった。ダブル選は、公明党が回避したい意向だ。年内解散の場合、「12月16日公示・28日投票」とする案もある。
法相と経済産業相のダブル辞任後、読売新聞社の10月24~25日の緊急全国世論調査では、内閣支持率は前回調査よりも落ちたとはいえ、53%を維持した。自民党内では「野党の選挙協力が整う前に解散した方がいい」との声が強まっていた。菅長官も、早期解散で勝利し、政権を立て直して来年の安保法制の整備などにつなげることを首相に進言していた。
(読売新聞 2014年11月09日 12時04分)
一方で、「鮫の脳みそ」「シンキロー」などの異名をとる元首相・森喜朗は、安倍晋三が既に消費税率の引き上げを決断したという観測気球を上げている。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201411%2F2014110701033
消費税、安倍首相は既に決断=森氏
「『迷っている』と言わなければしょうがない。早く『こうだ』と言ってしまったら対応が面倒だ」。森喜朗元首相は7日夜のBSフジの番組で、消費税率を来年10月から法律通り10%に引き上げるかどうかについて、安倍晋三首相は既に決断しているとの見方を明らかにした。
森氏はその上で「民主党政権が提起して自民党が協力して通した法律を『やっぱりやめた』では、自分たちだけが生きようとする政党か、と批判を受ける」と述べ、国民から歓迎されなくても増税を回避すべきではないとの立場を示した。
(時事通信 2014/11/07-22:41)
実際にどのように推移するかはわからない。一昨年暮の総選挙で自民党が政権に復帰し、自民党の政治家の中でももっとも悪質だと私が考えている安倍晋三の第2次内閣が始まってから、政局は予測できなくなった。ただ、坂道を転げ落ちている実感だけはある。しばしば当ブログで引き合いに出すけれども、歴史学者の坂野潤治は第2次安倍内閣成立を境に、日本(の現代史)は「崩壊の時代」に入ったと言ったが、その指摘は正鵠を射ている。たとえば、今年の夏に突然朝日新聞が「自爆テロ」ともいうべき振る舞いに出ようとは誰が想像し得ただろうか。
安倍晋三が衆議院を解散したい気持ちはよくわかる。消費税率再引き上げの先送りに伴う法律改正の是非を問うというのは口実に過ぎず、選挙戦でそんなものに本気で反対する政治家など自民党にも野党にも、一昨年の「三党合意」にかかわった人たちを含めて誰もいない。なぜなら、たとえ「三党合意」にかかわった政治家といえども、選挙で増税を訴えることは候補者や所属政党にとって不利になるからだ。だから消費税は選挙の争点には絶対にならない。安倍晋三の本心は、単に「絶対勝てる選挙だからやりたい」ということだけである。安倍晋三にとってこれほどおいしい解散のチャンスはまたとない。年内総選挙は単なる脅しではなく、本当に行われる可能性は相当程度あるのではないか。
以前、自民党が政権を追われる前の最後の内閣だった麻生内閣成立に際して、麻生には就任早々衆議院を解散する構想があって、朝日新聞前政治部長(現編集委員)の曽我豪がゴーストライターを務めたと噂される『文藝春秋』2008年10月号掲載の「論文」で、事実上の解散宣言を行ったことがあった。しかし、自民党の党内情勢調査で、解散しても自民党に勝ち目はないとの結果が出たのにひるんだ「鮫の脳みそ」シンキローらが麻生を羽交い締めにして解散させなかった。
この時当ブログは、解散が遅れれば遅れるほど自民党の傷は深くなる、麻生にとっての最善手は、自らの名前が記された「論文」で宣言した通りに衆議院を解散することだと主張した。これに対して、いや、あれは麻生と自民党が民主党を「兵糧責め」にしているんだよ、解散までの時間が長引けば長引くほど、民主党の選挙資金がショートするはずだよなどとしたり顔でご教示下さったコメンテーターの方がいた。コメンテーター氏のご高説はもののみごとに外れ、私の予想は当たった。ご存知の通り、自民党は2009年の衆院選で壊滅的な敗北を喫したのである。
ぎりぎりまで解散を先送りして政権与党が惨敗した「政権交代選挙」の例を引くまでもなく、一般に、衆議院の解散は仕掛けるのが早ければ早いほど、仕掛けた側に有利である。その最たる例が、思い出したくもない小泉純一郎の「郵政総選挙」(2005年)だった。あの時は、その前の衆院選からわずか1年9か月で解散が行われた。その時と比較すると、現時点で既に前の総選挙からの時間は長くなっているが、情勢は9年前と比較しても自民党にさらに有利だ。なぜなら、一昨年の衆院選では、まだ日本維新の会のバブル人気が残っていて、同党がかなりの議席を獲得したが、現在ではその人気はすっかりしぼんでいるからである。「結いの党」と合併して「維新の党」となった現在でも、1%前後の政党支持率しかない。
『週刊文春』には、自民党が議席を減らすような記事が書いてあるが、到底信用できない。なぜなら同誌の議席予想は、「維新の党」や「生活の党」(!)が現有議席を維持するとか、場合によっては議席を増やすなどというトンデモなものだからだ。同誌は、野党が健闘する場合、生活の党が選挙区3議席、比例6議席の計9議席を獲得するなどとしているが、誰が考えてもあり得ない話であろう。普通に考えれば、自民党の議席占有率がさらに高まる結果しか予想できない。
仮に解散総選挙が行われた場合、第3次安倍内閣が成立することは不可避だ。内閣が第3次に至るとすると、安倍晋三は小泉純一郎や中曽根康弘と肩を並べることになる。外交・安全保障政策のアブナさもさることながら、労働者派遣法を改悪しようとしたり、株価上昇で株主の資産が増えることは、給与の増加よりも経済に与えるプラスが大きいなどと平然とほざくことには、絶望しか感じられない。それでは富裕層の富が増えるだけであって、低所得者の消費が活発になって日本経済が回復することはあり得ないからだ。さらに私が絶望を感じるのは、国民の半数近くがそんな安倍晋三を支持していることだ。日本は今後、格差がさらに広がって、国民の「幸福度」がますます下がり、報道の自由度の世界ランキングもさらに下がるなどして、殺伐とした国になるのではないか。安倍晋三政権のさらなる継続が現実味を帯びてきた現在、「崩壊の時代」は行き着くところまで行くしかないのかと、気分はどこまでも暗くなるばかりの今日この頃なのである。
と書いた。誤解を恐れずに言えば、吉田氏の発言の虚偽を認めるなら90年代にやっておけ、右翼ナショナリズムの火に油を注ぐタイミングでやるのは、朝日の訂正それ自体は正しいけれども、政治的には有害だ
何より最悪だったのは、木村伊量・朝日新聞社長以下があの「検証」をやった動機が、明らかに「安倍政権との関係改善」にあったことだ。しかし、朝日上層部の思惑は完全に裏目に出た。「検証」記事が出た当日から、ネトウヨや右翼メディアは「ついに朝日が『捏造』を認めたぞ」と大騒ぎした。さらに、池上彰の月例評論記事の不掲載が火に油を注いだ。
今や、本屋の新刊書の売り場に「嫌韓・嫌中本」が山積みされる一方、雑誌売り場では右翼週刊誌・月刊誌による「朝日叩き」が一大ブームとなっている。
そんな「空気」をかつての「KY総理」安倍晋三が読んで悪乗りして一悶着起こした。これについて、京都在住の渡辺輝人弁護士のブログ『ナベテル業務日誌』の記事「安倍首相の「『撃ち方止め』は朝日のねつ造」はねつ造ではないのか」(2014年10月30日)を土台にして、『kojitakenの日記』に3本の記事を書いた。その最初の記事では、『ナベテル業務日誌』の記事を全文引用した上で、記事のタイトルをもじって「「『撃ち方止め』は朝日の捏造」は安倍晋三の捏造」(2014年10月30日)とした。続いて、「怒れ産経新聞! 安倍晋三は産経を読んでいないらしいぞ」(2014年10月31日)を書き、さらに、最初の記事にいただいたコメントを紹介した3本目の記事「「『撃ち方止め』は朝日の捏造」が安倍晋三の捏造である理由」(2014年11月3日)を書いた。
ここでは、この騒動の核心についてだけ簡単に論じる。それは、この一件は、安倍晋三が「朝日叩き」ブームに便乗して、大衆の俗情に媚びた、つまり「大衆迎合」をあらわにしたことである。
この件に関して、私の感想にもっとも近いのは、『日本がアブナイ!』の記事「安倍の朝日ヘイト答弁は誤認(捏造?)+脅迫で講師解雇、国ぐるみで朝日叩きするアブナさ」(2014年11月1日)である。事実関係をよく押さえているし、問題の安倍の答弁を報じた朝日新聞記事に安倍が切れて、再び国会で朝日批判を展開した件に触れ、その中で安倍が持ち出した2005年の「NHK番組改変事件」に関して、2007年の東京高裁判決で、安倍がNHKの放送総局長らと会って、番組内容の改変に影響を与えたことが認定されていたこともきっちり指摘している。蛇足だが、私が「NHK番組改変事件」でいつも思い出すのは、魚住昭が月刊『現代』2005年9月号で、安倍晋三と故中川昭一の圧力があったことを示す、説得力のある記事を書いたにもかかわらず、それからほどなくして朝日が安倍と中川に謝罪したことである。この件と、今年の「『従軍慰安婦』記事検証」とは直接つながっているように思う。
この記事で、『日本がアブナイ!』のブログ主は、
と書いているが、その通りであろう。そして、今回の一件は、安倍晋三の軽挙妄動ともいえるかもしれないけれども、安倍晋三が無理筋を承知の上で、朝日に因縁を吹っかけたというのがより真実に近いのではないかとも私は想像している。つまり、「萩生田と口裏を合わせて、萩生田が言ったことにしてしまえば良い」と最初から安倍が考えていたという可能性だ。もしそうであれば、今回の一件は安倍の「愉快犯」的犯行ということになる。安倍氏も含めた超保守勢力が「朝日新聞やその関係者はいくら叩いてもいい」という風潮を作り出しているのではないかと思うんだよね。
何が悪質かといって、国の最高権力者である総理大臣が、自分たちに都合の良い流行を悪用して、政敵に言いがかりをつけることだろう。これは、「ポピュリズム」などという甘っちょろい言葉で批判するのでは生ぬる過ぎる蛮行だと私は信じる。
然るに、安倍を擁護するネトウヨはともかく、「自称中立」の連中までもが、
などとほざいたので、私は激怒して再三このコメントを叩いた(これで三度目だ)のである。まあ、もし安倍が実際には言っていなかったのであれば、朝日(含めた新聞各社)がろくに裏取りもせずにガセを流したってことにはなるので、どっちもどっちですね。
首相の発言を裏取りしない大新聞と、どこの報道が最初か確認しないで答弁する首相……ハァ。
安倍晋三に心酔し、安倍が何を言ってもそれを正当化しようとするネトウヨが強弁する分は、仕方ないと思うしかない。日本を本当に谷底に突き落とすのは、自称「中立」の人たちの「どっちもどっち」論なのである。
権力者の時流への迎合ほど国をダメにするものはない。今回の場合は、その「時流」が国際社会の常識に反するものであるだけになおさらだ。
たとえば報道機関であれば、毎日新聞も一時この「時流」に便乗する形の「『慰安婦問題』の検証」を行ったが、国際社会から批判を受けた。今回の安倍発言では毎日は「首相の『捏造』発言 冷静さを欠いている」と題した社説で安倍晋三を批判している。一時「易きに流れ」ようとした毎日の社論に、国際社会からのフィードバックがかかった形と私はとらえている。
しかし、一般人にはこうした国際社会からのフィードバックはかからない。その分、(権力者の)暴走を加速させやすいのである。
せめて、政治に関心を持つ者であれば、その程度のことくらいは理解してもらいたいと思うのだが。