内閣支持下落53%…小渕氏辞任73%「当然」
安倍内閣の女性2閣僚の辞任を受け、読売新聞社は24~25日、緊急全国世論調査を実施した。
安倍内閣の支持率は53%で、前回調査の62%(10月3~5日実施)から9ポイント下落した。不支持率は37%(前回30%)。9月の内閣改造では女性の閣僚登用で支持率が上昇したが、今回はダブル辞任が支持率を押し下げた形だ。
小渕優子前経済産業相が、関連する政治団体の不透明な資金処理の責任をとって閣僚を辞任したことを「当然だ」とする回答は73%に上った。松島みどり前法相が、地元選挙区で「うちわ」を配布した問題で閣僚を辞任したことは、53%が「当然だ」と答えた。
今後、小渕氏が国会で自らの政治資金の問題について「説明すべきだ」との回答は76%を占めた。小渕氏の政治資金の流れが依然として明らかになっていないためのようだ。
(読売新聞 2014年10月25日)
もっとも、読売の世論調査では前回の62%という支持率が高すぎただけの話といえるかもしれない。読売より1日遅いタイミングで実施された朝日新聞の世論調査では、呆れたことに内閣支持率が「微増」して49%だったという。
内閣支持率49%、閣僚辞任後に微増 朝日新聞世論調査
安倍内閣の女性2閣僚が辞任したことを受け、朝日新聞社は25、26日に全国緊急世論調査(電話)を行った。内閣支持率は49%(今月4、5日実施の前回調査46%)と、わずかに上がった。不支持率は30%(同33%)だった。「ダブル辞任」に伴う内閣のイメージは、「変わらない」が52%と半数を超えた。「悪くなった」は42%で、「よくなった」は2%だった。
小渕優子前経済産業相が、支持者向けの観劇会をめぐる問題などで辞任したことについては、「辞めたのは当然だ」は65%で、「辞める必要はなかった」の23%を大きく上回った。松島みどり前法相が、地元の選挙区内で「うちわ」を配った問題で辞任したことについては、「辞めたのは当然だ」が51%で、「辞める必要はなかった」は36%だった。
2閣僚に対する安倍晋三首相の任命責任については「大いに責任がある」は16%にとどまったものの、「ある程度責任がある」は52%で、「責任がある」が計68%にのぼった。「責任はない」は、「あまり」23%、「まったく」7%で、計30%だった。
(朝日新聞デジタル 2014年10月27日00時24分)
この読売と朝日の、一見対照的に見える世論調査報道について、「『誤報』問題で白旗を掲げた朝日が安倍晋三に阿っている」とかいった具合の陰謀論をかます態度は誤りだ。両社の世論結果の数字を比較すると、読売の方が朝日よりも支持率・不支持率とも高く、支持率と不支持率のの合計は読売が90%(前回92%)であるのに対し、朝日は79%(前回も79%)である。つまり読売は、朝日だったら支持でも不支持でもないとみなす層をさらに「支持」と「不支持」に分類していると解釈される。今回は、「支持も不支持もしないけど、女性閣僚を5人も入れるなどしたことは買える」とかなんとかいったいい加減な理由で「支持」に分類されていた人たちが離れただけであって、コアな安倍内閣支持率はあまり変わっておらず、しかもそのコアな内閣支持層はかなり分厚いと悲観的に解釈せざるを得ない。
他の新聞社・通信社の世論調査は、いずれも小渕らの辞任前に行われたものだが、18,19日に調査した毎日新聞が支持47%(9月3,4日調査から横バイ)、不支持36%(同4ポイント増)、同じ18,19日調査の共同通信が支持48.1%(9月3,4日調査比6.8ポイント減)、不支持40.2%(同11.2ポイント増)、やはり18,19日調査の産経・FNNが支持53.0%(9月6,7日調査比2.7ポイント減)、不支持37.9%(同7.6ポイント増)となっている。
10月の調査では、読売と産経・FNNが支持率50%台前半、その他が支持率40%台後半で、報道機関による差が小さくなったのが特徴だ。上記5つの報道機関より少し前の10月10〜13日調査の時事通信も、支持47.9%(前月比2.8ポイント減)、不支持28.2%(同0.9ポイント増)となっている。要するに国民の約半数が安倍内閣を支持するか、または肯定的にとらえていることになる。
さらに長いタイムスケールで見ると、共同通信のサイトに、第1次安倍内閣後半の2007年5月以降の各内閣支持率の推移のグラフが載っている。これを見ると、昨年9月頃まで高止まりを続けていた安倍内閣の支持率は、消費税率引き上げ、特定秘密保護法の成立、集団的自衛権行使容認の閣議決定などを経て低下基調にはあるものの、低下のスピードはきわめて遅く、第1次安倍内閣後半の支持率よりはずっと高い。
一方で閣僚のダブル辞任があり、後継の経産相が東電株を保有している(他にSMバーがどうとかいうスキャンダルもあるが、経産相の東電株保有と比較すれば些少な問題だろう)件などを見る限り、これまでの内閣なら「末期症状」と評されても仕方のない出来事が続きながら、内閣支持率を見る限り、安倍政権は安定しているとしか言いようがないのである。
その最大の原因が、民主党による「政権交代」にあったことは、「反安倍政権のリベラル」だろうが「小沢一郎支持者」だろうが、もういい加減認めておかなければならないだろう。つまり、第1次安倍内閣から麻生内閣までの頃は、「自民党政権がダメなら民主党に政権を渡せば良い」と考えられていたのが、民主党政治の失敗によって、有権者に「自民党に任せておくほかしょうがない」という諦めを生じさせ、それが第2次安倍内閣の支持率を押し上げているのである。
そして、その民主党政権時代の悪印象の最たるものが、小沢一郎を中心とする人たちと菅直人・松下政経塾連合軍による権力抗争であった。とりわけ、2011年の東日本大震災・東電原発事故後の、小沢一郎と鳩山由紀夫による「菅降ろし」は、民主党政権のイメージに回復不可能な大打撃を与えた。この一大事に一体何やってるんだと国民の多くが思ったのである。そして、小沢一郎を熱狂的に支持する「小沢信者」がもっとも得意とするのが、以下に例を挙げる「陰謀論」に基づく思考であった。その悪しき伝統は今なお続いている。
たとえば、最初に紹介した読売新聞の記事によると、小渕優子の経産相辞任を「当然」とする意見が回答者の73%である。朝日新聞の調査でも同じ意見が65%を占める。
ところが、日本の「リベラル」あるいは「脱原発派」たちがやっていることといえば、「小渕優子は電力会社に老朽原発の廃炉を要求した。こんなことをするから金銭スキャンダルで潰されたんだ」などという程度の低い陰謀論を撒き散らすことだ。ある時、ある新聞記事についた「はてなブックマーク」で、この手のコメントを見かけた時に頭に血が昇って、『kojitakenの日記』に批判記事を書こうとしたが、すぐに馬鹿らしくなってしばらく下書きを放置していた。しかし、あまりにも癪なので一昨日(25日)に完成させて公開したら、意外にも二桁の「はてなブックマーク」がついた(下記URL)。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20141025/1414207313(『kojitakenの日記』〜「小渕優子は何も「『脱原発』を推進したから潰された」わけではない」=2014年10月25日)
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/kojitaken/20141025/1414207313(同記事についた「はてなブックマーク」)
中には、「国際関係論」を専攻する政治学の学徒であるらしい、その実体はただのネトウヨによる知ったかぶりの糞コメントもあるが、現在原発をめぐっては、表に見られる原発推進派と脱原発派の意見の対立の他にも、経産省と電力会社の原発をめぐる綱引きがあり、あくまでも原発を「利益を生み出す『打ち出の小槌』」として死守したい電力会社と、原発事業を電力会社から切り離して東西2つの別会社として実質的に国が管理したいとの構想を持つ経産省との間で意見が対立している。こういう事情を含めて、国策として老朽原発の廃炉が推進されている状況下で、あくまで原発の再稼働を円滑に進める意図をもって(これに関しては電力会社と政府の利害は一致する)、「お飾り大臣」の小渕が電力会社に対して、形式的に廃炉を促しただけの話である。なお、某ネトウヨのブログ主が得意そうに書いている「電力会社各社が太陽光発電買い取りを控えるようになった」件は、電力会社がこれからも原発を囲い込んで、高利益を得られる企業体質を守っていきたいがためであるが、ここで電力会社の経営者たちが意図的に無視しているのは、原発のバックエンドのコストであって、そんなものは経営者たちが退任したあと、あるいは死んだあとの話だから「我が亡きあとに洪水よ来たれ」の論理に従って無視していることはいうまでもない。
上記の文章も、原発をめぐる問題のほんの一端に触れただけだが、そういった事情を一切合切無視して、「小渕優子は電力会社に廃炉を求めたから金銭スキャンダルをほじくり返されて首になった」とコメントするレベルに「リベラル」や「脱原発派」が安住し続ける限り、安倍晋三や橋下徹や在特会の天下はいつまでも続く。
昨日(26日)、民主・社民などが推す候補に自民党が相乗りした福島県知事選が、相乗り候補の圧勝に終わったが、これなども「リベラル」や「脱原発派」の敗北として位置づけられなければならないだろう。
そればかりではなく、特に小沢一郎に近い人たちは、沖縄県知事選でも翁長雄志の足を引っ張る妄動を起こして恥じるところがない。私が言っているのは、喜納昌吉や植草一秀や三宅洋平といった人たちのことである。彼らは、民主党の政権交代を失敗に終わらせた最大の責任者の一人である小沢一郎(他に菅直人その他にも小沢と同じくらいの責任があるが)の失敗を総括するどころか、失敗を認めることすらなく、現に今も沖縄県知事選で仲井真弘多、ひいては安倍晋三以下の自民党を助けようとしている。いつまで経っても日本が良くならないのは道理である。
http://mainichi.jp/select/news/20141020k0000m010105000c.html
小渕経産相:20日、辞任へ…政治資金巡り引責
安倍晋三首相は19日、小渕優子経済産業相(40)の関連政治団体の不明朗会計問題を巡り、小渕氏の進退問題などについて首相周辺と対応を協議した。小渕氏は20日に首相と会談し調査結果を報告するが、小渕氏の説明が世論の理解を得るのは困難な情勢で、小渕氏はその場で辞表を提出する見通しだ。首相側は小渕氏の辞任は避けられないとして後任の人選に向けた作業に着手しており、閣僚経験者らの名前が取りざたされている。
◇第2次安倍内閣初…首相、後任の人選着手
自民党幹部は調査結果に関し「国民が納得できる説明は難しい。ここまで来るとやむを得ない」と述べ、小渕氏の辞任は不可避との見通しを示した。小渕氏が辞任すれば、第2次安倍政権では初の閣僚辞任となり、政権に大きな痛手となるのは必至だ。
首相は19日、東京都内のホテルで菅義偉官房長官らと対応を検討。野党は、松島みどり法相が「うちわ」を選挙区内で配布していた問題でも追及を強める構えで、松島氏の進退についても協議したとみられる。
首相はこの後、公務のスピーチを終えて私邸に戻った。記者団の「小渕氏の進退を判断したか」という問いかけには無言だった。小渕氏も同日、別のホテルに滞在し、調査結果の取りまとめをしたとみられる。
自民党の稲田朋美政調会長は19日のNHK番組で、「政治資金の使い道は国民の政治への信頼、ひいては日本の民主主義の質にかかわる問題だ」と強調。さらに「(小渕氏は)政治家として説明責任を果たす必要がある。きちんと報告、説明をされると思う」と語った。だが、野党からは「けじめをつけるべきだ」などと、小渕氏の辞任を促す声が相次いだ。
小渕氏や松島氏の問題で、臨時国会は審議が滞りつつあり、政府・与党は事態を早期に収拾する必要に迫られている。首相周辺は「問題を長引かせてはいけない」と語る。民主党は20日の衆院地方創生特別委員会に小渕氏を呼び、追及する構えで、自民党中堅議員も「小渕氏が20日に辞めなければ国会審議は大変なことになる」と懸念を示した。
与党幹部は「小渕氏の問題は事務処理の単純なミスだ。『違法性はなかったが道義的な責任、監督責任を取る』という形で幕引きをするのだろう」との見通しを示した。公明党幹部は「政権運営への影響は無くはない。第1次安倍政権を見ても、スキャンダルで支持率が下がるとなかなか戻らない」と懸念。「首相の支持率の源である経済対策をしっかりやっていくしかない」と語った。
政権は小渕氏の辞任に備え、後任候補の「身体検査」にも既に着手した。政府・与党内では、9月の内閣改造で首相がこだわった女性議員の起用だけでなく、男性の閣僚経験者や中堅議員らの名前も取りざたされている。首相は「政治とカネ」を巡る閣僚批判がこれ以上起きないよう、慎重に人選にあたる方針だ。【高本耕太、小田中大】
毎日新聞 2014年10月20日 02時31分(最終更新 10月20日 03時02分)
私は小渕優子が経産相に就任する以前には小渕への関心が低く、当ブログに取り上げた記憶もあまりなかったのだが、引用文中に小渕の名前が出てくる記事を含めて4本の記事があった。そして、そのうちの1本には、「小渕優子・麻生太郎ら疑惑まみれの世襲政治家たち」というタイトルがついていた。麻生太郎内閣発足直後、2008年9月30日付の記事である。以下引用する。
(前略)さて、今日のエントリではしばらく前から書こうとしてタイミングを逸しつつあった「身体検査」の問題について書きたい。
9月25日に朝日新聞が、と報じたが、小渕優子にはそれ以前から別件の「古傷」が報じられていた。小渕優子・少子化担当相が代表を務める自民党群馬県第5選挙区支部が、国土交通省などの指名停止処分を受けた5社から、その処分後から07年までに計約720万円の寄付を受けていたことが分かった。
それは、「サンデー毎日」8月10日号に掲載された、「本誌が身体検査! 「危ない大物議員」6人の「名前」」という記事に出ていたもので、福田改造内閣発足の直前に書かれている。「サンデー毎日」編集部の「身体検査」によって、改造内閣に入れてはいけないと列挙された議員の中に、小渕優子が細田博之・自民党幹事長とともに入っているのである。以下、「サンデー毎日」から引用する。では、首相(注:福田前首相)が避けるべき閣僚候補を見ていこう。
まず、刑事事件にかかわる「関係者」は論外だろう。その点で「落選確実」なのが、官房長官候補として呼び声の高い細田博之元官房長官(64)と、同じ群馬県選出で首相が親近感を持つといわれる小渕優子衆院議員(34)だ。
国土交通省発注の公用車運転業務をめぐり、天下りした同省OBらが談合を繰り返していた疑いがあるとして公正取引委員会が7月15日、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で業界を立ち入り検査したが、最大手の「日本道路興運」(東京都新宿区)から、二人とも「資金提供」を受けた過去があるためだ。
(中略)小渕氏の資金管理団体「未来産業研究会」の政治資金収支報告書によると、06年5月11日に東京・赤坂のホテルで開かれたパーティーの際、日本道路興運の前社長から100万円の個人寄付を受けていた。小渕事務所は本誌(「サンデー毎日」)の取材に「(前社長とは)先代(小渕恵三元首相)からのお付き合いです」と回答した。
(「サンデー毎日」 2008年8月10日号掲載 「本誌が身体検査! 「危ない大物議員」6人の「名前」」より)
要は、小渕優子は亡き父から引き継いだ利権にまみれた世襲政治家というわけで、よくこんな人物を閣僚に起用したものだと思うが、それもそのはず、上記「危ない大物議員」の中には、なんと首相になった麻生太郎自身の名前も出ているのだ。(後略)
何のことはない。小渕優子とは、もともと「政治と金」に関する疑惑まみれの政治家だった。当時の記事にも「亡き父から引き継いだ利権」と書いたが、世襲政治家とはかくのごときものであろう。
小渕優子の見識のお粗末さを書き立てた『LITERA』の記事に唖然とする一方で、斜に構えた視点から「小渕優子の危機管理パフォーマンス術」を持ち上げた(?)記事まであり、果ては「原発推進勢力が小渕優子を引きずり下ろそうとしている」と言わんばかりのエントリを上げる『院長の独り言』の小野俊一のような馬鹿な人間もいるが(小渕優子自身が原発再稼働を進めようといていた事実さえ小野の目には入らないらしい)、私の感想は単純に「やっぱり世襲政治家はダメだ」という一語に尽きる。麻生太郎や小泉純一郎や小沢一郎や鳩山由紀夫、それに何よりも安倍晋三を筆頭として、世襲政治家にはろくな人間がいない。世襲政治家が日本をダメにしたと言いたくなる。
そういえば、小渕優子の父・小渕恵三も「真空総理」などと言われ、何も考えていないように見えて、小沢一郎の要求を次々と受け入れて、戦後史を画する悪法の数々を成立させた人間だった。その後小渕恵三は、任期中に病に倒れ(その直前に小沢一郎と激しいやり取りがあったため「小沢一郎に殺された」とも言われた)、そのまま亡くなったために同情されたが、その任期中の悪行は決して忘れてはならないだろう。
そして小渕恵三死去の翌月に行われた2000年の衆院選で、小渕優子は26歳にして父・恵三の後を継いで衆議院議員になったのだった。つまり何の努力をすることもなく、「弔い合戦」とやらで地位を得た政治家である。その後、父から受け継いだ「負の遺産」を見直すこともなく、のほほんと代議士センセイの座に安住してきた結果、「政治と金」の問題を引き起こした。
思えば当ブログは、以前には世襲政治家批判の論調を強く打ち出していた。最近はあまり書かなくなってきていたが、それは良くなかった。
小渕優子の辞任(?)を機に、以前にも増して、世襲政治家批判を強く打ち出していきたいと思う今日この頃である。
この件に関して、韓国のハンギョレ新聞が韓国の検察と朴槿恵を批判している。
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/18491.html
[記者手帳] 日本の極右新聞を“自由言論闘士”に仕立てた韓国政府
登録 : 2014.10.11 00:51 修正 : 2014.10.11 06:58
1980年代中盤まで韓国を見つめる日本の視線には深い闇が垂れ込めていた。 1973~1988年にかけて月刊誌『世界』に連載された「韓国からの通信」は、軍事独裁に苦しむ韓国の事情を日本社会に伝える通路だった。 これを見て日本の多くの市民が韓国の民主化を応援し、時には直接支援に乗り出しもした。
在日韓国人歴史学者である姜徳相(カン・ドクソン)滋賀県立大学名誉教授は最近の『ハンギョレ』とのインタビューで、「解放後、韓国では独裁政権が続いた。そのために日本人は『あの国は人権のない恐ろしい国』と考えるようになった」と話した。 火に油を注いだのは1973年8月に白昼の東京都心で韓国の中央情報部(現、国家情報院)が実行した“金大中拉致事件”だった。 そしてまた別のイメージを挙げろと言われれば、おそらく“キーセン観光”だったろう。 独裁とキーセン観光の国、恐ろしくて後進的であるため近づいてはいけない国、それが民主化以前の韓国に対する日本人の平均的思いだった。
それから数十年の時間が流れた。 韓国は“漢江(ハンガン)の奇跡”を成し遂げ、1987年夏には市民が直接街頭に出て民主主義を勝ち取り、オリンピックとワールドカップも行った。 韓日関係に限ってみれば、1998年の金大中・小渕パートナーシップ宣言以後、両国の関係は飛躍的に発展する。 2002年に『冬のソナタ』がヒットして韓流旋風も吹いた。 今でも日本の高齢の知識人に会えば、韓国の民主化に感激した経験を延々と語り続ける。 しかし、現在両国関係は冷え込み、韓日間の海峡には憂鬱な戦雲だけが漂っている。
8日、韓国検察がセウォル号事故当日の朴槿恵(パク・クネ)大統領の7時間の行跡に疑惑を提起した『産経新聞』の加藤達也 前ソウル支局長を起訴した。 日本政府とマスコミは連日韓国を強く非難している。 菅義偉 官房長官は9日、韓国政府に向けて「民主主義国家で最大限に尊重されねばならない言論の自由に対する法執行は、最大限に抑制的でなければならない」と“入れ知恵”をしたし、主要新聞も10日「韓国の法治感覚を憂慮する」(毎日新聞)、「大切なものを手放した」(朝日新聞)、「韓国ならではの政治的起訴」(読売新聞)などの社説をのせた。 韓国が1973年に金大中拉致事件を起こしたその時期に戻ったように扱っているようだ。 その背景にはもちろん濃厚な嫌韓の雰囲気も漂う。 気の早い日本のメディアはすでに11月に韓日首脳会談が開催できなければ、その責任は韓国にあるという報道を吐き出している。
加藤前支局長の起訴は、日本人が韓国に対して持つイメージを大きく悪化させ、国際的にも韓国の民主主義に対する憂慮を増幅させるだろう。 実際、米国政府は今回の事件に関連して韓国政府の官吏たちと接触したと明らかにし、この事案を言論および表現の自由という基本的人権問題と見て、韓国政府に憂慮を伝えたことを示唆した。 ジェン・サキ米国務部報道官は8日「この捜査に当初から注目してきた」として「知ってのとおり、私たちは報道機関と表現の自由を広範囲に支持し、毎年出す(人権)報告書を通じて韓国の関連法に対する念慮を表明してきた」と話した。
韓国検察が自ら決めたことか、“上層部”の指示に従ったことか、とにかく韓国の検察は日本の“極右メディア”を全世界的な「言論自由の闘士」に仕立ててしまった。
普段から交流のある日本の経済週刊誌『東洋経済』の福田恵介 副編集長は「私は韓国の国民が民主主義をどのように獲得したかを知っているので、韓国国民の民主主義に対する姿勢を理解し尊重している」と話した。 しかし「苦労して言論の自由を手にして享受してきた国民の選択した政府が、わずか四半世紀が過ぎてこういう事をしていることに対して、本当に複雑な感情を持たざるをえない」と話した。 彼の言うとおり産経が憎らしくとも国家の品格を失ってはならない。 そんなことをすれば本当に大韓民国が“産経”になるだろう。
東京/キル・ユンヒョン特派員
朴槿恵の親父である朴正煕は、私が高校生の頃に射殺された。その頃、私は連日のように「朴正煕大嫌い」と公言していたものだ。だから、朴正煕が射殺された時、「おい、お前、朴大統領が殺されたぞ」と旧友に教えてもらった時には、正直言って「身から出た錆」だと思った。私の朴正煕に対する嫌悪は、何も「嫌韓厨」であったからではなく、軍事独裁政権に対する反感から生じたものだった。
昔、日曜日にテレビ朝日で田原総一朗司会の『サンデープロジェクト』をやっていた頃、第2部でよく韓国の政局を特集していたため、朴槿恵の名前はかなり前から知っていたが、私は朴槿恵を「朴正煕の娘」という理由で嫌っていた。それは、ちょうど安倍晋三を「岸信介の孫」という理由で嫌うのに似ていた。朴槿恵は早くから有力な大統領候補と言われていたが、2007年の大統領選前の保守政党・ハンナラ党(現セヌリ党)内の予備選挙で李明博に敗れた。2007年といえば、自民党が参院選で惨敗して安倍晋三が総理大臣の座を投げ出した年である。当然ながら私は朴槿恵と安倍晋三の敗北を歓迎した。しかし、2人は2012年に揃って日韓のトップになったのだった。
岸信介の孫で韓国系の利権も継承しているはずの安倍晋三と、1973年に自らの指示で起こした金大中事件を田中角栄に「政治決着」してもらった朴正煕の娘・朴槿恵の政権で、日韓関係がここまで悪くなるとは私は全く予想しなかった。安倍晋三と朴槿恵が、ともに自国のネトウヨを含む右翼民族主義的な心情を持つ支持層に媚びるために日韓関係が悪化することが予想できなかったのは不覚だった。そしてその背景には日韓両国の国力低下がある。韓国は、高齢化自体はまだ日本ほどではないが、出生率の低下は日本よりひどい。また、派遣労働者の比率も日本より高く、財閥系大企業の力は強いものの、財閥系企業は従業員を容赦なく切り捨てていき、運良く就職できても一生の仕事が保証されているわけでも何でもない。しかも、昨今はサムスン(三星)グループの斜陽が言われている。日本の没落も酷いが、韓国も日本のあとを追おうとしているように見える。
こうした日韓両国でともに右翼政権ができ、安倍晋三も朴槿恵もネトウヨに媚びるばかりでろくな仕事をしていないというのが実際の姿だろう。韓国のネトウヨについては、上記に引用したハンギョレ新聞の記事を批判するのに、「やはりサヨクは『親日』だ」などと言っているらしいから、手に負えなさでは日本のネトウヨといい勝負かも知れない。
そのハンギョレ新聞の記事は、文句のつけようのない正論だ。産経を「言論自由の闘士」に仕立ててどうする、と私も思う。だが、日本に住む人間としては、果たして朴槿恵を批判しているだけで良いのかとも思うのである。
上記ハンギョレ新聞の記事についた「はてなブックマーク」のコメントには、右翼からのものと思われるろくでもないものが多いが、中には共感できるものもある。それらをピックアップしてみる。
coper この一件は言論・報道の自由を脅かす一大事には違いない。しかし、産経のゴシップ報道の自由のために声を挙げることには馬鹿馬鹿しさ恥ずかしさが伴うので、どうにも力が入らない。 2014/10/12
filinion メディア 政治 言論の自由は韓国国民にとってこそ重大な問題なわけで、これは応援せざるを得ない。引き金になったのが我が国の新聞の下衆記事だというのはなんというか申し訳ない。 2014/10/12
questiontime ハンギョレが左派であることを気にする人達がいるけど、日本で同じようなことが起きたら、読売や産経は確実に政府を支持するだろうし、今や、朝日が批判できるかどうかもわからない。 2014/10/12
最後のブコメの「日本で同じようなことが起きたら、読売や産経は確実に政府を支持するだろう」というくだりに特に共感した。
そう、安倍晋三政権下で日本の検察が韓国のメディアを起訴するなどという事件が起きた時、毅然として検察と安倍晋三を批判できる者だけに、今回の韓国検察の暴挙を批判する資格がある。
産経にそんなことができるはずがないのは明らかだ。
私は朝日新聞の購読者だが、先月分の新聞代を集金にきた販売店員に、契約は来年1月までですが、そのあとどうしますかと聞かれたので、そんな先の話はわからないと答えておいた。3月までよく世間話をしていた販売店員は辞めたのか、4月から担当者が代わっており、その男とは雑談を交わす間柄ではないし、新聞を月極でとっている人は皆同じだと思うが、見返りなしでこちらから契約を申し入れたりなどしない。もっとも見返りといっても、少しばかりの洗剤をいただくとかその程度の話である。ただ、「先の話はわからない」と言った私に販売店員は「そうですよねえ」と答えたのだが、朝日の販売店員もすっかり弱気になってるんだなあとちょっと同情してしまった。
朝日バッシングが大手を振って行えると知ったネトウヨは、気に入らない論者を誰彼となくバッシングする暴挙に及んでいる。御嶽山噴火に自衛隊が出動した件に関する江川紹子氏のTwitterに対する攻撃もその一例といえる。
この件を、軍事ジャーナリストの清谷信一氏が取り上げた。記事は『東洋経済オンライン』に出ている(下記URL)。
http://toyokeizai.net/articles/-/49744
記事の冒頭部分を以下に引用する。
御嶽山への自衛隊派遣、口を挟むとサヨク?
必要なのは事実に基づく冷静な議論
清谷 信一 :軍事ジャーナリスト
2014年10月05日
9月27日の御嶽山噴火。多くの登山客の命を奪った惨事での捜索にあたり、陸上自衛隊が派遣された。これをみたジャーナリストの江川紹子氏がツイッター上で「むしろ警視庁や富山県警の機動隊や山岳警備隊の応援派遣をした方がよさそう」と疑問をツイートしたことに対して、一部の軍事オタクらが反駁、その中には江川氏を左翼と決めつけ、「左翼に軍事の常識を教えてやる」といったような言説も多かった。結果として、江川氏が引き下がるような形で幕を下ろした。
だがそれで良かったのだろうか。自衛隊に対する批判を許さない多くの論者は防衛省や自衛隊を疑うことを知らず、自衛隊を偏愛する傾向がある。今回のような「袋叩き」が増えれば、自衛隊のあり方に疑問を発することがタブー化する恐れもある。それが健全な社会だろうか。
得てしてネット論者の主張は客観性を欠くものが多く、事実と願望を混同することも少なくない。とくに、今回の一部論者の主張には極めて珍妙なものも多かった。その典型例は自衛隊の装甲車の投入の必要性を強調するあまり、「装甲車は火砕流に耐えられる」というものだ。(後略)
(「日本の防衛は大丈夫か - 東洋経済オンライン」より)
「江川氏バッシングは不健全」という結論には同感だし、そもそも私はなんで装甲車の議論になるのかさっぱりわからなかった。
私は、そもそも戦争が大嫌いということもあって、軍事技術に関心も薄く知識もない人間だが、山には関心も興味もあって、御嶽山には登ったことはないけれども山のどのあたりで登山者が噴火に巻き込まれた(噴石の直撃を受けたり火山灰を吸い込んだりした)かはわかるので、装甲車の議論が白熱する理由が全く理解できなかったのである。
それを指摘しているのが下記サイトだ。
http://homepage2.nifty.com/daimyoshibo/ppri/egawavsjsf.html
御嶽山噴火・江川vsJSF論争について
2014年の御嶽山噴火災害救助に自衛隊を投入したことについて、ジャーナリストの江川紹子さんが Twitter 上で疑問を呈し、それに軍事ブロガーのJSFさんが噛みついて騒動になっている。(togetter リンク)
私が一連のやりとりを見ていてまず最初に思ったことは、
「急峻な山岳に装甲車を投入するのが前提になってる議論はおかしいんじゃないの?」
ということであった。
(国境線に山岳地帯を有さない日本の)陸上自衛隊に、山岳地を行動する能力があるのか、という江川さんの疑問は素人としてはもっともなものである。それに対しては、正しい軍事マニアなら
「松本連隊はかつて「山岳レンジャー」とも呼ばれたほどの山岳地訓練を受けた部隊ですよ」と返すのが正しいあり方であり、第一声が「装甲車なら火砕流にも耐えられます」というのは視点の立て方がおかしいとしか言いようがない。
そして、その後の救助活動のようすや、自衛隊の公式発表を見ればわかるように、自衛隊投入の最大の貢献は、装甲車部隊ではなく、山頂付近まで迅速に飛び、被災者を搬送できたヘリコプター部隊の活躍である。空気が薄い高山で、空中停止を含めたあれだけの行動ができるとはすばらしい。そして、輸送ヘリに先んじて現地上空へ飛び、気象観測などの偵察任務にあたったヘリの威力も見逃せない。
そしてそれは、松本第13連隊の上級部隊である第12旅団が空中機動旅団だからできたことであろう。軍事マニアとしてはそういった編成面のことまで素人にわかりやすく説明できるべきではなかったか。(後略)
この意見なら納得できる。山には興味はあるが軍事技術には興味のない人間なら誰もが「急峻な山岳に装甲車を投入するのが前提になってる議論はおかしいんじゃないの?」と思ったのではないか。その素朴な感覚を裏付ける、軍事技術好に詳しい方はやはりおられた。この記事を読んで、ようやく私は一安心した。
御嶽山の噴火は、たまたま運悪く紅葉のシーズンの快晴の土曜日の正午前という、山頂に多数の登山客がいる最悪のタイミングで起きたが、火山の噴火としてはごく規模の小さな水蒸気爆発であって、亡くなられたり怪我をされた方は山頂付近にいた人びとに限定されている。だから、マグマ噴火を起こして麓まで火砕流が流れてきた雲仙普賢岳噴火とは状況が全く異なるのである。それなのに、装甲車の議論を延々とやっている。一体何を無意味な論争やってんだと思ってたら、江川紹子氏が謝ってしまった。
それに至るまでの議論の過程には、江川氏がうっかり相手の土俵に乗ってしまったミスもあったようだが、「軍事マニアの著名ブロガー=勝ち、江川紹子=負け」の図式は、ちょうど「吉田調書」報道における「読売・産経=勝ち、朝日=負け」と同じように誤りだと私は思うのだ。
前記「御嶽山噴火・江川vsJSF論争について」の記事は、2つのサイトにリンクを張っている。そのうち、ブログ『隅田金属日誌』の記事「馬に追従して鹿も『火砕流に耐えられる』」は書く。
http://schmidametallborsig.blog130.fc2.com/blog-entry-1195.html
自衛隊が装甲車を持ち込んだとしても、短期間なら火砕流に耐えられるからではない。火山弾に耐えられるかもしれない、あるいは、それこそ火災が略消えた状態で、余燼の中を通れるといった程度の理由である。そもそも、装甲車やら戦車やらが活躍できる地形でもない。
結局は、人による救助になる。その意味では、山岳救助隊の類の方が優れているという判断は間違っているとは言えない。装甲車を持ち込んでも、道沿い以外では近くまで寄れない。そこで移動式の掩体代わりに使える程度である。
また、『Openブログ』の記事「御嶽山に装甲車?」は書く。
http://openblog.meblog.biz/article/23752695.html
- 雲仙岳ではマグマ爆発の続発で高熱にさらされる危険性があり、装甲車が必要だった。一方、御嶽山では、一回限りの水蒸気爆発があっただけなので、人間とヘリコプターだけで足りる。装甲車の出番はない。(必要ない)
- 装甲車はそもそも、山面を登れない。雲仙岳では麓だけ(タクシーでも行けるところだけ)だったから、装甲車でも行けた。一方、御嶽山では、斜面を登ったかなり高いところである。そこを装甲車で登れるか? 登れない。たとえキャタピラーがあっても、どんなに強力なタイヤがあっても、装甲車は斜面を登れない。なぜなら、火山灰がたくさん積もっていて、スリップするからだ。実際、下山した人々は、「雪の上をすべるようだった」と証言している。こんなところを装甲車で登ったら、ある程度登ったあとで、一気に滑落する。その場合、装甲車の内部にいた人々は、死亡するか重症を負う。つまり、二次災害だ。一人として救うこともできず、救助隊員が死ぬだけだ。愚の骨頂。ゆえに、装甲車の出番はない。
これらの説明には説得力がある。最初に引用した『東洋経済オンライン』の記事でも清谷信一氏は書く。
噴火に際して装甲車が有用なのは主として火山弾に対する防御力であり、また履帯をもった装軌式装甲車は、不整地踏破能力が高いので、火山弾や火山灰の中でも走行がある程度可能であることだ。
かつて雲仙普賢岳の噴火において60式装甲車が使用されたのはそのような理由からだ。ある論者は、現在でも60式を利用できるかのように主張しているが、60式はすでに退役しており、後継の73式装甲車の装甲は鋼鉄製ではなく、より熱に弱いアルミ製である。たとえ60式が使用できるとしても、同形式にはNBC(核・生物・化学兵器)に対処する防護能力が装備されていないため、外気を濾過するフィルターもないために乗員は粉塵を吸い込むことになる。
今回、陸自が使用した装甲車は装軌式の89式装甲戦闘車だった。ただし進出したのは他の車両と同様、登山道入り口の7合目まで。装甲車では険しい山道を山頂まで登ることはできない。装甲車がどんな地形でも登れるわけではないのだ。
そうだよなあ。どう考えたって装甲車は現場までは登れないよなあ。それなのになんで装甲車が議論の中心になり、江川紹子氏がバッシングされなければならないのか。
断っておくが、前回の記事で異を唱えたネトウヨによるバッシングの対象となった勝間和代氏ほど「大嫌い」ではないが、私は江川紹子氏を大して買っていない。ウヨサヨ論で言うなら江川氏は右翼でも左翼でもなく、単に「保守的」な人であろう。だが、いわば「民主党的ご都合主義」の論法で「東電社員の『命令違反』」を非難した朝日新聞と同様、ネトウヨから見れば江川氏は「憎むべき左翼」らしいのだ。
清谷氏の記事についた「はてなブックマーク」に、こんなブックマークコメントをつけたネトウヨがいた。
confi 江川紹子を左翼ではないというのはかなり難しいのになぜ食いつくのか…やはり東洋経済自体が左寄り… 2014/10/05
これには脱力してしまった。そりゃまあネトウヨは石橋湛山を許容できないだろうけれど。それにしても住みにくい世の中になったものである。