きまぐれな日々

 一昨日(7/26)と昨日(7/27)の朝日新聞に、「女が生きる男が生きる そこにある貧困」という大型特集記事が掲載された。7月9日に始まった不定期連載の第2回とのことだ。一昨日は、3月に横浜で起きた、ベビーシッターに預けた長男が殺された事件から記事が始まった。また昨日は、50代の独身女性が派遣労働で腰が痛くなるような仕事を続けながら「食べていくのに精いっぱい」だという話から記事を始めた。なお、7月9日付の第1回は、昨夜(7/27)放送されたNHKスペシャル『調査報告 STAP細胞 不正の深層』で、その悪質な研究不正が追及された理研の小保方晴子を取り上げていた。これについては、本記事と並行して『kojitakenの日記』に「1月の『STAP細胞記者会見』も笹井芳樹の演出だった」と題した記事を書いた(下記URL)。ただ、「STAP細胞」の件は本記事ではこれ以上触れない。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20140728/1406475516

 朝日の同じ特集の前回(7/9, 10)の記事は、格差や貧困とは関係ない話だったが、今回は働く女性の格差と貧困が取り上げてられた。格差と貧困といえば、日本では2006年にNHKスペシャル『ワーキングプア』が放送されたことや、翌2007年、北九州市で生活保護受給者が生活保護を打ち切られたあげく、「おにぎり食べたい」と書き残して餓死した事件が起きたことから議論が沸騰した。前記北九州の事件は、同年行われた参院選の2週間ほど前に起き、第1次安倍政権への逆風をさらに強める結果となった。但し、日本で格差と貧困が目立って広がったのは、その前の小泉純一郎政権(2001〜06年)であり、安倍晋三は小泉純一郎の政策を継承したに過ぎなかった。

 日本で新自由主義批判がもっとも強まったのは2008年であって、それが翌年の衆議院選挙における「政権交代」につながったが、民主党政権3代が失敗したあと、安倍晋三が政権に復帰し、大胆な金融緩和とリフレ政策を打ち出したのが効果を現し、大企業で賃上げが行われただけではなく、中小企業での平均賃金も上昇し、町の飲食店などでも時給が上がった。こう書くと、「いや私の賃金は上がっていない」と言う人もいるだろうし、実は私もその1人なのだが、国内平均では確かにそうなっている。私の場合でも、少なくとも「賃下げ」はなくなった。最後に書いた飲食店の時給については、時々張り紙を観察していて、「あれっ、こんなに上がったのか」と思うケースがあった。

 金融緩和とリフレは、経済(学)の「専門家」たちが議論を展開しており、安倍政権の経済政策が始まった当初、私はそういった神学論争には立ち入らないと何度か(当ブログや『kojitakenの日記』)で書いた。そして、それよりも安倍政権の経済政策には「再分配」が欠けており、その問題点はジョセフ・スティグリッツも批判している(2013年6月15日付朝日新聞インタビューなど)と指摘してきた。

 それからずいぶん時間が経過した。大胆な金融緩和とリフレがそれなりの成果をあげたことは認めるべきだと思う。少なくとも「リベラル」や「左翼」がデフレ、富裕層(資産を持てる者)の強い味方にして働く人間の大敵であるところのデフレの脅威を過小評価していた失敗は問われなければなるまい。

 一方で、実質的に再分配を伴わない(公共事業という、再分配の側面はあるがその対象が東京など大都市に本社を持つ土建業に偏った事業は別とする)安倍政権の経済政策が、早くも壁に当たりつつあることを感じるのである。つまり、安倍政権の経済政策の副作用(弊害)が今後表れると予想する。いくら金融緩和をしても、富裕層の投資マネーが回るだけでは人々の暮らしは良くならず、あちこちの分野で生じるバブルの生成と破裂は、それに巻き込まれた人々の人生を破壊する弊害ばかりをもたらすと思うのだ(後述のトマ・ピケティは大胆な金融緩和は中間層に打撃を与えると主張している)。

 日本では政権交代の失敗や、安倍政権の経済政策の一時的成功によって議論が下火になっていた格差と貧困の問題だが、欧米では「資本主義の限界」が深刻にとらえられるようになった。そんなタイミングで現れ、特にアメリカで大きな話題を呼んでいるのが、トマ・ピケティの『21世紀の資本(論)』だ。「(論)」と書いたのは、今年の年末か来年の年初に刊行される邦訳のタイトルが『21世紀の資本』となるからである。明らかにマルクスの歴史的大著をもじった署名であって、マルクスが書いた本の書名も "Das Kapital"、英語では "The Capital" すなわち日本語では『資本』なのだから、ピケティの本 "Le capital au XXIe siècle"(英訳 "Capital in Twenty-First Century")本のタイトルも『21世紀の資本』で良いのだ。但し、ピケティはマルクス主義者ではなく、主流派経済学者である。ピケティはリベラル派であり、2007年のフランス大統領選では社会党のロワイヤル候補に最高経済顧問として仕えた。

 池田信夫(ノビー)はピケティを「マルクス主義者」と呼び(ノビーのブログ記事(「マルクスは正しかった」より)、またぞろピケティ本の訳者・山形浩生氏と何やら小競り合いを演じているようだが、ピケティが(今日の経済学のツールを使って)資本主義には「資本収益率のほうが経済成長率より高い」という傾向が超長期的に成り立ち、これが富を集中化させているとの仮説を打ち出したことを、マルクスが「資本の蓄積が進むと、労働者の(相対的な)窮乏化が進む」としたことにノビーは重ね合わせているものであろう。(デヴィッド・ハーヴェイの理解によれば)マルクスがアダム・スミス、マルサス、リカードといった当時の主流派経済学者の理論を検討し、それを「脱構築」して自らの理論を打ち立てたことを思えば、ピケティがマルクス主義者かどうかということは、私にはどうでも良いことのように思える。

 私は、2008〜09年の世界金融危機であらわになった金融資本主義の暴力性をどう制御し、変革していくかが世界的な課題となっていると現状を把握したい。

 今年6月14日付朝日新聞に掲載されたトマ・ピケティのインタビュー記事で、私が注目した論点がある。以下、ピケティの言葉を引用する。

 政治的には、人々がグローバル化に背をむける危険性があります。国内的に問題を解決する手立てが見つけられないとき、人は非難する対象を外に探すものです。欧州の国でいえば、外国人労働者であったり、欧州連合(EU)やドイツであったり。それだけではなく、不平等が行きすぎれば、社会階層や職業などの間の流動性を小さくしてしまいます。
(2014年6月14日付朝日新聞オピニオン面掲載 トマ・ピケティのインタビュー記事より)


 つまりピケティは、「人々がグローバル化に背をむける」ことを「危険」とみる。そして「国内的に問題を解決する手立てが見つけられないとき、人は非難する対象を外に探す」ことを批判する。

 私は、これがリベラル派の本来あるべき姿ではないかと思うのだ。実はこのところ、「経済左派」という(ポリティカル・コンパスで用いられる)言葉を疑っている。ポリティカル・コンパスで「保守左派」とされる考え方こそ、ファシズムにもっとも近いのではないかと考えているのである。私は以前から「『右』も『左』もない」という言葉を、その言葉を用いる人間ともども批判してきたが、その思いは強まる一方なのだ。

 ピケティは、格差解消を是正する手段として、所得税の累進制強化も挙げているが、それ以上に重要なのが資産への累進課税であり、それを国際的に協調して行っていく必要があると述べている。以下、朝日新聞のインタビュー記事から最後の部分を引用する。

 ――国際的な累進課税ですか。何か夢物語のようです。
 「簡単ではありません。しかし、不可能かといえば不可能ではない。スイスの銀行は顧客の秘密を外に出さない制度を守ってきました。5年前には、これが崩れるとは誰も考えなかったでしょう。それこそ夢物語だった。でも、米国がスイスの銀行に制裁しようとしたら、スイスは突然政策を変更しました」

 ――国際協調はどうしたらできるのでしょうか。G20(主要20カ国・地域首脳会議)で合意するとか?
 「米国とEUの間で、貿易や投資の自由化のための話し合いがこれから進みます。このなかで、租税回避防止策や多国籍企業への課税など、税制の分野で協力できることはあると思います。資産を世界規模で把握することは、金融を規制するうえでも重要です。完璧な世界規模の課税制度をつくるか、さもなくば何もできないか、というオール・オア・ナッシングの進め方ではだめです。その中間に多くのやり方があります。一歩一歩前に進むべきです」

 ――課税の累進性を強めると、比較的富裕な層の経済活動が鈍くなり、結果として経済成長を鈍化させませんか。
 「これは慎重に扱わなければいけない問題です。実利的に考えるべきです。すべては、どのような水準の収入や資産にどのような税率をかけるかに、かかっています。確かに年収20万ドル(2040万円)の人に80%の最高税率が課せられたら、やる気を失ってしまうでしょう。でも、年収100万ドルや500万ドルであれば大丈夫だと思います。資産への課税も同じです。巨額の資産があり、そこから年6~7%の収益を得ている人に1~2%の税金をかけることは大きな問題ではないでしょう」

(2014年6月14日付朝日新聞オピニオン面掲載 トマ・ピケティのインタビュー記事より)


 「非難する対象を外に探す『一国反グローバリズム』」からは、このような考え方は出てこないだろう。

 私のもう一つの予想として、今後、グローバル金融資本主義の猛威がますます強まった時、これまで新自由主義の旗を振ってきた保守政治家が、「反グローバリズム」に転向する、ということがある。この時、リベラル・左派側が「新自由主義批判が広まった」と喜んでいたら馬鹿を見る。気づいたら排外主義を伴った「一国反グローバリズム」に走り、現在安倍晋三が成長戦略として力を入れている軍需産業に生産を傾斜させる総動員体制ができあがるのではないか。

 今でも苦々しく思い出すのは、"bakawashinanakyanaoranai" と銘打ったレイシズムむき出しの暴言を自らのブログに書き散らした現自民党衆院議員(安倍晋三の側近)を、少なからぬ「リベラル」、いやそればかりか某共産党系大物出版人までもがもてはやしたことだった。担ぎ上げられた御輿の名前は城内実という。最近は盟友の稲田朋美ともどもさっぱりの御仁ではあるが、こんな輩を一時的にせよ「リベラル・左派」が担いだ反省は、未だになされていないのである。
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 昨日(13日)投開票が行われた滋賀県知事選は、選挙期間中のマスコミの予想通り大接戦の結果、三日月大造候補が初当選を決めた。開票結果は下記の通り。

 三日月大造 無新 43歳 253,728 票(得票率 46.3%)
  小鑓 隆史 無新 47歳 240,652 票(得票率 43.9%)
  坪田五久男 無新 55歳 53,280 票(得票率 9.7%)

 当選した三日月大造候補は、民主党衆院議員を3期務め、民主党が惨敗した2012年の衆院選では選挙区(滋賀3区)では自民党候補に敗れたものの比例で復活当選し、4期目に入っていた。しかし、今回の滋賀県知事選立候補を目指して議員辞職する意向を表明し、2期目の現職・嘉田由紀子知事と協議の結果、嘉田知事の不出馬と三日月氏の出馬が決まった。三日月氏は民主党を離党し、無所属で民主党を含む政党の推薦を受けずに立候補した。

 三日月氏と激しく競り合った小鑓隆史候補は、元経産省、すなわち原発推進の総本山の官僚出身である。小鑓氏は、自民、公明、それに日本維新の会滋賀県連から推薦を受けた。

 三日月氏の滋賀県知事選出馬が決まった頃、私は正直言って、こりゃ自公候補の圧勝だろうなと思った。三日月氏と嘉田知事が候補一本化の協議をしていた頃、毎日新聞と読売新聞が嘉田知事の不出馬説を報じたが、これは現時点の目から振り返ると、両者の動きをよくつかんだ報道だった。しかし、ネットの脱原発派の間には、「出馬すれば三選され得る嘉田知事を降ろし、勝ち目のない三日月氏を出馬させようとするマスコミの謀略報道だ」と叫んで、嘉田知事に出馬を要請する向きもあった。

 私はそれを見ながら、嘉田由紀子知事も本心では三選に自信がなく、降りても良いと思っているから、出たくてたまらない三日月氏に押し切られるのも無理ないのではないかと思った。なんといっても、嘉田知事には一昨年の衆院選で小沢一郎や飯田哲也らと「日本未来の党」を立ち上げたものの惨敗したあげく、小沢一派に党を乗っ取られ、嘉田・飯田側には元社民党の阿部知子氏しか残らなかったという汚点がある。嘉田・三日月両氏が協議していた4月末から5月初めの時点では、嘉田知事と三日月氏のどちらが出馬しようが自公候補に勝てないのではないかと思われた。ただ、嘉田知事には地元で根強い人気がある可能性もあるかなとは思った。地元での人気ばかりはよそ者には容易に窺い知れないもので、あの小沢一郎ですら岩手4区では未だに人気があるらしい。だが、三日月氏にはそのメリットも少なく、やはり苦しいのではないかと思った。

 しかし、いざ選挙戦が始まると、マスコミは大接戦を伝えた。共同通信は「三日月氏と小鑓氏が接戦」、朝日新聞は「三日月氏やや先行、小鑓氏猛追」、読売新聞は「小鑓・三日月氏が横一線」との見出しをつけた。未確認情報によると、朝日調査では三日月氏が小鑓氏に8ポイント差で、読売調査では小鑓氏が三日月氏をわずか1ポイント差で、それぞれリードしていたとのこと。見出しからも明らかなように、共同通信は朝日と読売の中間で、三日月氏の票がわずかに多いという、今回の結果にもっとも近い情勢調査だった。

 私は、朝日と読売の報道は、互いの社論を反映して色がついているのではないかと思った。といっても何も両紙が数字を捏造したと言いたいわけではなく、質問の仕方によって社にとって望ましい調査結果に誘導したということだ。だから、現実の情勢に一番近いのは共同通信の予想だろうと思っていたが、その通り共同通信の情勢調査報道がドンピシャで的中する結果となった。

 50.15%の投票率は、参院選と同日で行われた前回(2010年)より低かったが、嘉田知事が初当選した前々回(2006年)よりはかなり高く、有権者の関心は決して低くなかったといえる。

 結果を左右したのは、原発再稼働の問題だったと考える。一般的には原発は票に結びつきにくいとされるが、滋賀県は多数の原発を抱える福井県と隣接しており、原発への関心は他の都道府県の平均水準よりかなり高いと思われるからだ。そこにもってきて、自民党が原発推進の総本山である経産省の官僚上がりの候補を持ってくるとは、あまりにも「再稼働へのお墨付き」狙いが露骨だった。小鑓隆史という人も、官僚臭が強く「上から目線」でものを言う人だったとも伝え聞く。これではいくら自民党(安倍晋三)が飛ぶ鳥を落とす勢いだといっても、驕りが過ぎるというものだ。滋賀県民は、そんな安倍晋三に鉄槌を下したと私はみなしている。

 朝日新聞(7/13)によると、告示1か月前の自民党の調査では、小鑓氏が三日月氏に10ポイント差をつけていたという。それがわずか1か月で逆転したことに、安倍政権が集団的自衛権行使容認を閣議決定したことを挙げている。ネット検索をかけてみると、国内他紙に加えて、アメリカのウォールストリート・ジャーナルも同様の見方をしているようだ。これについては、そうであってくれれば幸いだけれど半信半疑というのが正直な感想だ。集団的自衛権行使容認が安倍政権崩壊のきっかけとなるかどうかについては、私はかなり悲観的である。昨日も、乗った地下鉄の車内で、「9月解散で自民党350議席の圧勝」なる某週刊誌の宣伝を見て鬱になった。確かに、9月と言わずとも年内に衆議院選挙をやられたら、週刊誌が書く通りの結果になりかねないし、そうでなくても衆議院選は2016年までには必ず行われるのである。

 自民党と連立を組む公明党が、来年(2015年)の統一地方選への影響を懸念して、集団的自衛権行使容認に伴う関連法案の今秋の臨時国会を先送りさせたくらいだから、現実に年内解散の可能性は低いとは思うが、あの悪夢の小泉郵政選挙(2005年)を引き合いに出すまでもなく、解散権は総理大臣の切り札である。安倍晋三の腹一つで決まってしまう。

 実際には、次の衆院選をにらんだ野党の離合集散が今後始まるのだろうが、今回の結果に打撃を受けたのは、何も自民党だけではない。ある意味で、自民党以上に打撃を受けたのは、日本維新の会、結いの党、それに民主党の前原誠司や細野豪志らが立ち上げを目指している「新党」構想だろう。

 今回の選挙結果に私が快哉を叫んだのは、日本維新の会の橋下徹が、明確に小鑓候補を支持し、応援演説を行ったにもかかわらず、小鑓候補が敗れたことだった。

 橋下が小鑓候補を応援したのは、選挙の情勢報道で小鑓氏の苦戦が予想されたことに焦った菅義偉官房長官のじきじきの要請を受け入れたためだが、ここで絶対に記憶しておかなければならないことがある。それは、自民党、特にその中の極右勢力(現在は安倍晋三が中心)がピンチに陥った時には必ず橋下が助っ人として立ち現れるということだ。先の集団的自衛権行使容認の時もそうだった。橋下は、集団的自衛権行使容認への支持を言明し、このことが安倍晋三が公明党に圧力をかけるための大きな助けになった。公明党と組まなくとも、みんなの党や石原新党(「次世代の党」という、実体と正反対の名前がついている)や維新と連立を組んでやっていけるよ、という脅しである。もちろんあっさりとそれに屈した公明党が批判されるべきは当然だけれど。

 橋下に話を戻すと、今回もその通り、安倍晋三の助っ人として橋下が立ち現れたわけだ。そもそも、安倍晋三が総理大臣に返り咲くきっかけをつかんだのも、2012年の終戦記念日に、橋下と松井一郎が安倍晋三を維新のリーダーとしてスカウトしようとしていることを朝日新聞にスッパ抜かれて1面トップ記事にされたことだ。これによって、安倍晋三を維新に行かせまいとする動きが自民党内に起き、それがあろうことが安倍の総裁復帰というあってはならない結果につながってしまった。

 こんな橋下を、「超保守と対決するために活用したい」とか、「脱原発に頑張る橋下市長を応援しよう」などと言って持ち上げるのは愚の骨頂なのである。「リベラル」や「左翼」の諸賢は、事実を直視しなければならない。橋下は今後も、いざという場面になったら必ず安倍晋三を助ける選択肢を選ぶ。そのことは100%間違いない。だから、橋下はただひたすら打倒の対象でなければならない。

 痛快だったのは、日本維新の会の支持者たちが橋下の動きに応えなかったことだ。朝日新聞の出口調査の結果によると、維新支持者の59%が三日月候補、6%が共産党推薦の坪田五久男候補に投票し、小鑓候補に投票したのは36%にとどまった。橋下はもはや維新支持者にも見放されたというわけだ。これは、今後の新党構想にも影響を与えるだろう。今や橋下とくっつくメリットが他党にとってほとんどないという事実を、今回の滋賀県知事選はまざまざと示したといえるからだ。橋下が応援した候補は落選したし、橋下はお膝元の票を固めることすらできなかったのである。

 なお、同じ朝日の出口調査で、公明党支持者の92%が小鑓候補に投票し、自民支持者の79%を上回っているが、記事も指摘する通り、公明党支持者の棄権が目立った。彼らは、党の支持する候補の対立候補に投票する勇気までは持たないが、棄権することで党に抗議することは現実に行っているといえようか。この場合、棄権の最大の理由が集団的自衛権行使容認であったとは私も思う。

 論点を変えて、安倍晋三の名前をとったネーミングでもてはやされた安倍政権の経済政策がうまく行かなくなり始めていることも、小鑓候補敗戦の一因だろうと思う。私見では、同経済政策は、金融緩和とインフレターゲットには効果が認められるものの、政権の財政出動が旧来型の公共事業に偏重しており、より積極的な再分配政策には全く不熱心である(公共事業もそれなりの再分配効果は持つが、東京に本社を持つ企業が潤う効果が大きく、一般国民への再分配の効果は大きくない)こと、それどころか労働の規制緩和や安価な労働力としての外国人労働者のとしての受け入れなど、私が「逆再分配」とみなす政策にばかり熱心である。これでは、緩和マネーは投機及びそれがもたらすバブルの形成(とそれに続く崩壊)にしかつながらず、金融緩和の副作用が今後顕著に表れる結果にしかならないと思う。政権の政策が効果をあげるためには、金融緩和と同じくらい大胆な再分配政策が必要だと思うが、安倍政権の性格上、そんな政策をとる可能性は万に一つもない。だから、こんな政権は一刻も早く打倒しなければならない。

 もちろん、その道ははるか遠い。しかし、安倍政権打倒のためには、最低でも滋賀県知事選で自公の候補に土をつける必要があった。そしてそれはなんとか達成された。そのほか、くどいほど書くが、橋下徹の正体と限界が誰の目にも明らかになった。

 この記事で、当選した三日月候補への論評はほとんどしなかった。正直言って、あまりピンとこない政治家である。だが、この選挙は、三日月候補が勝ったことよりも、自公が敗れたことと、橋下の正体が明らかになったことによって収穫があったと思わせるものであった。
 集団的自衛権行使容認の閣議決定のあと、安倍晋三が直ちに動いたのは、日本政府による北朝鮮への制裁の一部解除だった。以下、朝日新聞と毎日新聞の記事を引用する。

http://www.asahi.com/articles/ASG735H81G73UTFK008.html

拉致問題を優先、対話路線に 北朝鮮への制裁を一部解除
久木良太、松井望美

 安倍晋三首相は3日、日本政府が北朝鮮に独自に科してきた制裁の一部を解除すると発表した。日本政府はこれまで拉致・核・ミサイルの「包括的な解決」を掲げてきたが、安倍政権は事実上、拉致問題優先にかじを切り、圧力から対話に軸足を移した。ただ、北朝鮮の核・ミサイルに懸念を強める米韓との足並みが乱れる恐れもある。

 日本政府は、日本人拉致被害者らを再調査する北朝鮮の特別調査委員会が、金正恩(キムジョンウン)第1書記をトップとする「国防委員会」の幹部を委員長に内定するなど「直轄」の態勢を組んだと判断し、調査の実効性が確保できると結論づけた。

 日本政府の説明では、調査委には、北朝鮮の最高指導機関の国防委員会から全機関を無条件に調査できる特権が与えられ、秘密警察にあたる「国家安全保衛部」も参加。委員長には、正恩氏の側近とされるソ・テハ国防委員会安全担当参事兼国家安全保衛部副部長が就く。首相は3日、記者団に「国家的な決断をできる組織が前面に出る、かつてない態勢ができた」と制裁解除の判断を説明した。

(朝日新聞デジタル 2014年7月4日05時35分)


http://mainichi.jp/select/news/20140705k0000m010084000c.html

北朝鮮制裁解除:拉致問題で決断…「整合性取れぬ」懸念も

 政府は4日の閣議で、北朝鮮に対して日本独自で行っていた制裁の一部解除を決定した。北朝鮮も同日、日本人拉致被害者らの安否に関する再調査を行う特別調査委員会を発足させ調査を開始すると発表した。ただ、制裁は北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を理由に発動しており、拉致問題に絡めて解除したことには「整合性が取れない」と政府内でも不安視する声が出ている。

 閣議では、全面禁止していた北朝鮮籍船舶の入港について、医薬品や食料品の輸送など人道目的に限り解除を決定。併せて、北朝鮮籍者や当局職員の入国禁止、北朝鮮への日本人の渡航自粛など人的往来の制限▽北朝鮮への10万円超の現金持ち出しの届け出義務と300万円超の送金の報告義務−−の制裁も政令改正などで解除した。

 北朝鮮が重視する貨客船・万景峰号の入港禁止と北朝鮮との輸出入禁止などの制裁は継続する。

 安倍晋三首相は4日午後、拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表らと首相官邸で会談し、制裁解除について「(北朝鮮は)今までにない態勢で調査するという約束をした。行動対行動の原則に従って対応していくことを決定した」と述べ、拉致問題を進展させるために決断したと強調した。

 だが、政府が北朝鮮に独自制裁を発動したのは、2006年7月の北朝鮮による弾道ミサイル発射がきっかけだ。その後も核実験の実施やミサイル発射のたびに独自制裁を重ねてきた。

 初の制裁発動を決めた06年当時、官房長官だった首相は「北朝鮮が拉致問題に誠意ある対応がないことも念頭に置いている」と説明しているが、政府筋は「拉致問題を前に進めるためとはいえ、核ミサイルを理由に発動した制裁を拉致問題の進展を理由に解除するのは矛盾している」と指摘。核ミサイル開発問題で、北朝鮮への「圧力」が弱まることに懸念を示した。

 北朝鮮は早ければ8月末にも最初の調査結果を出すとみられ、調査の進展を理由に万景峰号の入港禁止措置など追加の制裁解除を要求する可能性がある。家族会側は4日、首相に「北朝鮮が誠意ある回答を出さない場合は、制裁をより強く復活することは当然だ」と要望。首相は「しっかりとした態勢を作り、調査が進むことを見極めたい。いい結果が出るよう、北朝鮮を促していきたい」と述べた。【福岡静哉、小田中大】

毎日新聞 2014年07月04日 21時23分(最終更新 07月05日 11時21分)


 このニュースに隔世の感を覚えたのは私だけだろうか。

 というのは、安倍晋三が名前を上げ、右翼のヒーローとなったのは、第1次小泉内閣時代の2002年、当時内閣官房副長官として小泉に同行して訪朝した安倍晋三は、対北朝鮮強硬策を主張して、その姿勢が当時内閣官房長官だった福田康夫と対比されたものだからだ。当時の2ちゃんねるを覗いて呆れた記憶があるが、右翼の安倍晋三に対する熱狂ぶりと、福田康夫に対するこき下ろしぶりはすさまじいものだった。

 ついでに書いておくと、小泉訪朝の翌月(2002年10月)、日本のマスコミ(フジテレビ、朝日新聞、毎日新聞)によるキム・ヘギョン(ウンギョン)さんの会見が行われたが、この件に関するフジテレビの報道に、ネトウヨの憤激が爆発した。特に槍玉に挙がったのはフジテレビで当時『報道2001』のスタッフだった小川美那という記者に対する攻撃だった。それを見て、こりゃ人間の所業ではないよなと感じ、ネトウヨに対して開いた口がふさがらなかったのだった。

 その後、小泉政権末期にして第1次安倍内閣発足直前の2006年夏、北朝鮮がミサイルを発射した時にも安倍晋三は強硬姿勢をとった。2番目に引用した毎日新聞記事にある安倍晋三のコメントはその時のものだろう。

 さらに時は流れ、2007年、第1次安倍内閣が安倍晋三の政権投げ出しで終わったことを受けて福田康夫内閣が発足した。この時の福田康夫は、第1次内閣時代に安倍晋三が作った「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が提出した、集団的自衛権行使容認を求める提言を店晒しにしたことにも触れておきたい。要するに、あのまま安倍晋三が政権を投げ出さずに第1次安倍内閣が続いていたら、もっと早く集団的自衛権行使容認が閣議決定されていただろう。当時の民主党代表は小沢一郎であり、当時はまだ「小沢信者」という言葉もほとんど用いられていなかったし、小沢一郎は集団的自衛権行使容認を求める態度を堅持していたから、自公のほか民主党も賛成したであろうことに疑う余地はない。さらに書いておくと、2007年の参院選の民主党マニフェストに「消費税増税」を書き込むことを小沢一郎は検討したが、選挙にプラスにならないと判断したのか、それはやらなかった。しかし、当時の小沢が消費税増税論者であったことは間違いない。

 脱線ついでに、さらに余計なことを書くと、福田康夫も安倍晋三に引き続いて、2008年に政権を投げ出したのだが、この時「福田首相では衆院選に勝てない」ことを理由に「福田降ろし」に加担したのが公明党であった。以上から見るように、小沢一郎だの公明党だのは、昔からろくなことをやってこなかったのである。私が今回の集団的自衛権行使容認の政局で公明党に全く期待しなかった理由の一つが、上記のいきさつである。

 本論に戻ると、福田康夫は首相時代、「拉致問題は私の内閣で解決する」と語り、2008年には北朝鮮との交渉が大きく動き出すかに見えた。当時、極右言論人・櫻井よしこが福田康夫を批判した文章を書いているので、以下紹介する。

http://yoshiko-sakurai.jp/2008/06/28/723

「北朝鮮は追い詰められているのになぜ福田首相は制裁を解除するのか」
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 745

6月13日、福田康夫首相は、「(北朝鮮に拉致問題で)話し合う姿勢が見えた。交渉プロセスの入り口に立ったと考えていい」と語り、日本の北朝鮮政策を転換させ、これまで続けてきた制裁措置の一部を解除することを発表した。

福田首相は、安倍晋三前政権の圧力に力点を置いた「対話と圧力」路線から、対話に力点を置く融和外交に大転換した。首相は「政府の方針は、拉致被害者全員の帰国を目指しているという点で、変わっていない」と述べたが、再調査の結果が出ない段階で制裁解除に動くのは、拙速にすぎないか。

その点で、今回の政策転換のきっかけとなった6月11、12日の日朝実務者協議での交渉の検証が重要である。

日朝実務者協議に出席した斎木昭隆外務省アジア大洋州局長は13日、横田早紀江さんら家族会に同協議の内容を説明した。それによると、“怒鳴り合い”のような協議のすえ、ようやく、北朝鮮側は「拉致は解決ずみ」とは言わなくなり、再調査を約したという。だが、斎木氏が「生存者を返すという意味の再調査でないと受け入れない」と念を押すと、北朝鮮側からは反論もなかった代わりに、回答もなかったという。つまり、再調査の意味は不明だというのが真実であろう。

北朝鮮側には本腰を入れて拉致被害者についての再調査を行ない、それを日本側に報告し、原状復帰を果たすつもりは、おそらくないと見てよいだろう。蓮池薫さんらの証言では、拉致被害者は常に北朝鮮の監視の下にあった。調査などしなくても、北朝鮮側は全員の現状を知っており、日本側に、すぐにでも情報提供ができるのだ。

それをしないのは、情報を出せない理由があるということだ。にもかかわらず、今回、再調査を約束したのは、よど号ハイジャック犯を日本に引き渡すことが主目的だったといえる。

ハイジャック犯の引き渡しは、日本側が長年要求してきた。北朝鮮側はこれに応ずることなく今日まできた。日本との関係のなかでは、北朝鮮は犯人たちを引き渡す必要性などまったく感じていなかったのである。

ところが今回は引き渡すという。理由は米国の政策にある。米国はハイジャック犯を匿っていることを理由の一つとして、北朝鮮をテロ支援国家と指定し、金融制裁を科してきた。その結果、金正日総書記が世界中の金融機関に隠し持っている5,000億円を超えるといわれる資金は凍結されたままだ。韓国側の分析では、金総書記が軍を維持し、政権の生き残りを図るには、年間5億~10億ドルが必要だ。1995年秋に始まった米国の金融制裁と日本の安倍政権以来続く厳しい措置とで、金総書記はかなり追い詰められていると思われる。

核問題でかたちばかりの譲歩をしてみせるのも、日本に、実態不明の拉致問題再調査を約束してみせるのも、そしてその結果、ハイジャック犯を放逐するのも、米国の意向に沿うことでテロ支援国家指定を解いてほしいからだ。

北朝鮮のこのような目論見は容易に見通せる。にもかかわらず、なぜ福田首相は前のめりともいえる拙速に走るのか。その謎を解く鍵の一つが、このひと月ほどのあいだに報じられたいくつかの記事にある。「横田めぐみさん 94年6月後も生存」(5月26日付「毎日新聞」)、「北朝鮮・拉致被害者、数人生存、帰国の用意」(5月27日付「毎日新聞」夕刊)だ。

いずれも一面掲載のこれらの記事は関係者らに当たってみると、事実無根だった。しかし、大新聞が一面に書くとなれば、確かな情報源があるはずだ。おそらくそれは、政府中枢ではないか。つまり、北朝鮮との交渉を進展させるために、真偽とりまぜて情報攪乱をしている人びとがいるということだ。

こうした状況での福田首相の決断はあまりにも危ういものなのである。

(『週刊ダイヤモンド』 2008年6月28日号より)


 櫻井よしこは現在、当時福田康夫を批判したのと同じ理由で安倍晋三を批判しているだろうか。私はそれを確認していないが、もし櫻井よしこが安倍晋三に対しては批判の口を閉ざしているとするなら、ダブル・スタンダードの誹りは免れまい。同じことは、大半の右翼言論人やネトウヨについても同じことがいえる。

 私は何も安倍政権の北朝鮮に対する制裁の一部解除に反対しているのではない。今回の記事で私が何を言いたいかというと、現在安倍晋三がやろうとしていることは、2008年に福田康夫がやろうとしたことの延長に過ぎず、その間6年もの月日が空転していたことであって、その責任こそ問われるべきだということだ。当時、安倍晋三や麻生太郎は福田康夫を批判していた。そして、福田康夫のあと総理大臣になった麻生太郎は、予想通り拉致問題解決にストップをかけてしまった。

 当然、当時福田康夫がつかんでいたことは、安倍晋三もよく知っているはずだし、現在マスメディアが報じているように、安倍晋三は、集団的自衛権行使容認で支持率が若干低下した自らの内閣の人気を再び浮揚させるための「切り札」として拉致問題を捉えていることは疑う余地がない。

 どんなものが飛び出してくるかは、情報を持っていない一般国民にはうかがい知ることはできないから、この件に関しては事態を注視するしかないのだが、一つだけ言いたいのは、この件に関する安倍晋三の過去の悪行に対する批判を、決して怠ってはならないということだ。