東京都知事選は告示の時点でもはや「勝負あった」情勢だ。この都知事選について、宇都宮健児の前回都知事選選対の問題と細川護煕及びその背後にいる小泉純一郎に対する批判は先週までの記事に書いた。今回は、保守・右翼の側で対照的な世論調査結果となっている舛添要一と田母神俊雄について書く。
舛添要一については多くを書く必要はあるまい。かつて第1次安倍内閣が法制化しようとした「ホワイトカラー・エグゼンプション」を、「家庭団らん法」と言い換えようとした男。それでいて2008年に新自由主義批判が強まると、「日本人には高福祉高負担が合っている」と言うなどの変わり身の早さも見せたが、舛添は現在では「日本の現状は、明らかに『低負担高福祉』国だ」などと言っているそうだ。『AERA』の1月13日号に出ているとのこと。
舛添の議論から抜け落ちている観点は、もちろん舛添は意識的に語っていないのだろうが、「再分配」であろう。私はまず富裕層減税をやり過ぎた過去の失政を認め、行き過ぎた浮遊増減税を元に戻した応能負担の税制をベースにして、それに「広く薄い」間接税を上乗せするというのが福祉国家の税制のあり方だと信じているのだが、日本では「行き過ぎた浮遊増減税を元に戻す」議論がどうしても前に進まない。それはリベラル・左派側が「増税反対」ばかりを言っているせいもあるのだが、そんな流れに乗って舛添は「サービスを受けたければ増税を甘受せよ」と脅し文句を言っているのである。
こんな舛添の都知事選当選がほぼ間違いないのは嘆かわしいことこの上ないが、対立候補が弱すぎるのだからどうしようもない。前回都知事選における選対に「政治と金」の問題や「村八分」体質が指摘されながら立候補を強行した宇都宮健児と、宇都宮陣営よりもさらに大きな「政治と金」の疑惑を抱える上、小泉純一郎に応援されるばかりか、自身も21年前の連立政権で新自由主義経済政策をとろうとした細川護煕では、舛添に勝てる見込みは万に一つもない。これでは、共同通信の世論調査で、自民と公明のそれぞれの支持層の約半分しか押さえることのできていない、必ずしも強くない候補・舛添といえども左うちわの選挙戦が戦えるというものだ。
今回の都知事選には、もう一人「有力」とされる舛添の対立候補がいる。田母神俊雄である。
この田母神俊雄の応援団の顔ぶれがすごい。石原慎太郎、平沼赳夫、渡部昇一、西部邁、西尾幹二といった「老極右」の巨頭連中に始まり、中西輝政、中山成彬、西村眞悟、三橋貴明、すぎやまこういち、アパグループ代表の元谷外志雄、大阪の百田尚樹、果てはデヴィ・スカルノ夫人に至るまで、まさしく「右翼オールスターズ」の豪華メンバーである。
しかし、それにもかかわらずマスコミの世論調査によると、田母神は舛添はおろか細川護煕にも宇都宮健児にも及ばない4位が予想されている。
ここで考えてみたいのは、現在総理大臣である安倍晋三に主義主張の上でもっとも近い候補者は誰かということである。いうまでもなく田母神俊雄である。しかし、その田母神は都知事選で数パーセントの支持しか受けない「泡沫候補」も同然である。つまり、安倍晋三は日本の有権者の平均的な考え方とは相当かけ離れた思想信条の持ち主であるとはっきり言える。
その安倍晋三が、国内外での暴走をさらに強めている。
安倍晋三は先日のダボス会議で「現在の日中関係は第1次世界大戦前のイギリスとドイツの関係に似ている」と発言し、世界各国の代表を呆然とさせた。今年は第1次大戦の開戦100年にあたるが、安倍晋三が日本を当時のイギリスに、中国を当時のドイツになぞらえていることは明らかだ。第1次大戦でイギリスは戦勝国、ドイツは敗戦国だったが、日本は途中でドイツに宣戦布告し、「戦捷」の戦果に至っている。この安倍晋三の妄言に対して中国が怒ったことは当然だが、第1次大戦でドイツに勝ったイギリスからも、安倍晋三に対する痛烈な批判が飛び出した。フィナンシャル・タイムズなどが安倍晋三を批判したのである。
単純に考えても、100年前のヨーロッパにおけるドイツと現在のアジアにおける中国では重みが違う。第1次大戦から第2次大戦の間の期間において、中国と戦争を起こすかたわらで、日本に沸き上がってきたのは「日米開戦論」だった。当時の日本において、「日米もし戦わば」という議論が盛んになされていたが、それは、現在夕刊紙や週刊誌などが特集を組んで多くの読者を得ているらしい「日中もし戦わば」と通底する。その頃も日本とアメリカとの経済的な結びつきは決して希薄ではなかったが、1924年に「排日移民法」が制定されたことに対して日本のアメリカに対する反発が高まり、1931年以降の日本と中国との戦争においてアメリカが中国寄りの姿勢をとったことによって日本人の反米感情は強まっていった。
「現在の日中関係と似ている」というなら、1920年代から1941年の太平洋戦争開戦に至る日米関係こそ、まず第一に挙げられるべきであろう。第1次大戦前のイギリスとドイツとの関係などよりもずっと似ている。それに何よりも、第三者が言うのではなく、世界から緊張関係を指摘されているその当事者、しかも昨年末に靖国神社を参拝してその緊張をさらに強めた張本人である安倍晋三が、あたかも他人事のように日中関係を100年前の英独関係にたとえたのである。「安倍晋三は何を馬鹿なことを言っているのか」と世界中から呆れられたのも当然だ。
しかし、そんな「日本の常識は世界の非常識」を隠蔽し、このところ安倍政権に翼賛する放送ばかりを行っているのがNHKである。その報道姿勢が北朝鮮にたとえられるのも当然であろう。
たとえば、NHK新会長の籾井勝人は、就任早々こんな暴言を吐いた。
http://mainichi.jp/select/news/20140126k0000m040043000c.html
安倍晋三は、7年前の2007年に総理大臣の職を自ら投げ出した後も、自らの息のかかった人間をNHKに送り込むことに執念を燃やしていた。否、安倍晋三のNHKへの介入は、2001年の番組改変事件の頃には既に始まっていたのである。この不逞の極右政治家による公共放送私物化の野望は、残念ながらほぼ成就してしまった。
私は、一部の人間が言うように、今回の都知事選で舛添要一の当選を阻止できなければ安倍晋三が戦争へと突き進むのを阻止できないとは思わない。しかし、安倍晋三が現在行っているような妄動を止めなければ、日本が再び破滅的な戦争へと突き進んでしまうだろうとは確信している。安倍晋三は何が何でも止めなければならない。安倍を止めなければ、私たち日本に住む人間が破滅してしまう。ただ、安倍晋三は細川護煕を都知事選に当選させたくらいで止められるものではないし、仮に舛添要一を当選させてしまったからといって止められないわけでもないと思うだけである。細川だの舛添だのは所詮同類であって、どっちが勝とうが大勢に影響ない。急所はそこにはない、そう直感する。頭の中で想念がもやもやしていてうまく文章で表現できないが、何かもっと根源的な変革を引き起こさなければならないと思う。
何より、安倍晋三の思想上の「同志」である田母神俊雄の惨敗が確実であること、それにもかかわらず、少数の極右思想信奉者を代表しているに過ぎない安倍晋三がなぜ総理大臣の座に居座って、現在見られるような独裁政治を行うことが可能になっているのか。不条理もはなはだしいと私は思う。その権力構造のメカニズムを解明して安倍晋三を頂点とする敵の急所を突き、一日も早く安倍晋三を退陣に追い込む必要があるだろう。
舛添要一については多くを書く必要はあるまい。かつて第1次安倍内閣が法制化しようとした「ホワイトカラー・エグゼンプション」を、「家庭団らん法」と言い換えようとした男。それでいて2008年に新自由主義批判が強まると、「日本人には高福祉高負担が合っている」と言うなどの変わり身の早さも見せたが、舛添は現在では「日本の現状は、明らかに『低負担高福祉』国だ」などと言っているそうだ。『AERA』の1月13日号に出ているとのこと。
舛添の議論から抜け落ちている観点は、もちろん舛添は意識的に語っていないのだろうが、「再分配」であろう。私はまず富裕層減税をやり過ぎた過去の失政を認め、行き過ぎた浮遊増減税を元に戻した応能負担の税制をベースにして、それに「広く薄い」間接税を上乗せするというのが福祉国家の税制のあり方だと信じているのだが、日本では「行き過ぎた浮遊増減税を元に戻す」議論がどうしても前に進まない。それはリベラル・左派側が「増税反対」ばかりを言っているせいもあるのだが、そんな流れに乗って舛添は「サービスを受けたければ増税を甘受せよ」と脅し文句を言っているのである。
こんな舛添の都知事選当選がほぼ間違いないのは嘆かわしいことこの上ないが、対立候補が弱すぎるのだからどうしようもない。前回都知事選における選対に「政治と金」の問題や「村八分」体質が指摘されながら立候補を強行した宇都宮健児と、宇都宮陣営よりもさらに大きな「政治と金」の疑惑を抱える上、小泉純一郎に応援されるばかりか、自身も21年前の連立政権で新自由主義経済政策をとろうとした細川護煕では、舛添に勝てる見込みは万に一つもない。これでは、共同通信の世論調査で、自民と公明のそれぞれの支持層の約半分しか押さえることのできていない、必ずしも強くない候補・舛添といえども左うちわの選挙戦が戦えるというものだ。
今回の都知事選には、もう一人「有力」とされる舛添の対立候補がいる。田母神俊雄である。
この田母神俊雄の応援団の顔ぶれがすごい。石原慎太郎、平沼赳夫、渡部昇一、西部邁、西尾幹二といった「老極右」の巨頭連中に始まり、中西輝政、中山成彬、西村眞悟、三橋貴明、すぎやまこういち、アパグループ代表の元谷外志雄、大阪の百田尚樹、果てはデヴィ・スカルノ夫人に至るまで、まさしく「右翼オールスターズ」の豪華メンバーである。
しかし、それにもかかわらずマスコミの世論調査によると、田母神は舛添はおろか細川護煕にも宇都宮健児にも及ばない4位が予想されている。
ここで考えてみたいのは、現在総理大臣である安倍晋三に主義主張の上でもっとも近い候補者は誰かということである。いうまでもなく田母神俊雄である。しかし、その田母神は都知事選で数パーセントの支持しか受けない「泡沫候補」も同然である。つまり、安倍晋三は日本の有権者の平均的な考え方とは相当かけ離れた思想信条の持ち主であるとはっきり言える。
その安倍晋三が、国内外での暴走をさらに強めている。
安倍晋三は先日のダボス会議で「現在の日中関係は第1次世界大戦前のイギリスとドイツの関係に似ている」と発言し、世界各国の代表を呆然とさせた。今年は第1次大戦の開戦100年にあたるが、安倍晋三が日本を当時のイギリスに、中国を当時のドイツになぞらえていることは明らかだ。第1次大戦でイギリスは戦勝国、ドイツは敗戦国だったが、日本は途中でドイツに宣戦布告し、「戦捷」の戦果に至っている。この安倍晋三の妄言に対して中国が怒ったことは当然だが、第1次大戦でドイツに勝ったイギリスからも、安倍晋三に対する痛烈な批判が飛び出した。フィナンシャル・タイムズなどが安倍晋三を批判したのである。
単純に考えても、100年前のヨーロッパにおけるドイツと現在のアジアにおける中国では重みが違う。第1次大戦から第2次大戦の間の期間において、中国と戦争を起こすかたわらで、日本に沸き上がってきたのは「日米開戦論」だった。当時の日本において、「日米もし戦わば」という議論が盛んになされていたが、それは、現在夕刊紙や週刊誌などが特集を組んで多くの読者を得ているらしい「日中もし戦わば」と通底する。その頃も日本とアメリカとの経済的な結びつきは決して希薄ではなかったが、1924年に「排日移民法」が制定されたことに対して日本のアメリカに対する反発が高まり、1931年以降の日本と中国との戦争においてアメリカが中国寄りの姿勢をとったことによって日本人の反米感情は強まっていった。
「現在の日中関係と似ている」というなら、1920年代から1941年の太平洋戦争開戦に至る日米関係こそ、まず第一に挙げられるべきであろう。第1次大戦前のイギリスとドイツとの関係などよりもずっと似ている。それに何よりも、第三者が言うのではなく、世界から緊張関係を指摘されているその当事者、しかも昨年末に靖国神社を参拝してその緊張をさらに強めた張本人である安倍晋三が、あたかも他人事のように日中関係を100年前の英独関係にたとえたのである。「安倍晋三は何を馬鹿なことを言っているのか」と世界中から呆れられたのも当然だ。
しかし、そんな「日本の常識は世界の非常識」を隠蔽し、このところ安倍政権に翼賛する放送ばかりを行っているのがNHKである。その報道姿勢が北朝鮮にたとえられるのも当然であろう。
たとえば、NHK新会長の籾井勝人は、就任早々こんな暴言を吐いた。
http://mainichi.jp/select/news/20140126k0000m040043000c.html
NHK:籾井会長、従軍慰安婦「どこの国にもあった」
NHK新会長の籾井勝人(もみい・かつと)氏(70)は25日の就任記者会見で、従軍慰安婦問題について「戦争地域にはどこの国にもあった。ドイツにもフランスにもヨーロッパはどこでもあった」と述べた。過去にも経営委員長が国際放送の編集方針について「国益を主張すべきだ」と発言して問題になった。政治的中立を疑われかねない不用意な発言を繰り返し、トップとしての資質も問われそうだ。
さらに個人的意見として「今のモラルでは悪い」としつつも「韓国が『日本だけが強制連行した』と言っているからややこしい。補償問題は全部解決した。なぜ蒸し返すのか、おかしい」と韓国の姿勢を批判した。特定秘密保護法の報道が少なく、姿勢が政府寄りとの指摘があることについて、「(法案は国会で)通ったこと。あまりカッカする必要はない」と、問題点の追及に消極的な姿勢を示した。
また、籾井氏は3年間の任期中に取り組む最重要課題の一つに国際放送の充実を挙げ、領土問題について「尖閣諸島(沖縄県)や竹島(島根県)について日本(政府)の立場を主張するのは当然」として早急に強化する姿勢を示した。「政治との距離」については「(政府と)相談しながら放送していく必要はないが、民主主義に対するわれわれのイメージで放送していけば、全く逆になることはない」との認識を示した。【土屋渓、有田浩子】
毎日新聞 2014年01月25日 21時26分(最終更新 01月26日 00時59分)
安倍晋三は、7年前の2007年に総理大臣の職を自ら投げ出した後も、自らの息のかかった人間をNHKに送り込むことに執念を燃やしていた。否、安倍晋三のNHKへの介入は、2001年の番組改変事件の頃には既に始まっていたのである。この不逞の極右政治家による公共放送私物化の野望は、残念ながらほぼ成就してしまった。
私は、一部の人間が言うように、今回の都知事選で舛添要一の当選を阻止できなければ安倍晋三が戦争へと突き進むのを阻止できないとは思わない。しかし、安倍晋三が現在行っているような妄動を止めなければ、日本が再び破滅的な戦争へと突き進んでしまうだろうとは確信している。安倍晋三は何が何でも止めなければならない。安倍を止めなければ、私たち日本に住む人間が破滅してしまう。ただ、安倍晋三は細川護煕を都知事選に当選させたくらいで止められるものではないし、仮に舛添要一を当選させてしまったからといって止められないわけでもないと思うだけである。細川だの舛添だのは所詮同類であって、どっちが勝とうが大勢に影響ない。急所はそこにはない、そう直感する。頭の中で想念がもやもやしていてうまく文章で表現できないが、何かもっと根源的な変革を引き起こさなければならないと思う。
何より、安倍晋三の思想上の「同志」である田母神俊雄の惨敗が確実であること、それにもかかわらず、少数の極右思想信奉者を代表しているに過ぎない安倍晋三がなぜ総理大臣の座に居座って、現在見られるような独裁政治を行うことが可能になっているのか。不条理もはなはだしいと私は思う。その権力構造のメカニズムを解明して安倍晋三を頂点とする敵の急所を突き、一日も早く安倍晋三を退陣に追い込む必要があるだろう。
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