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きまぐれな日々

憲法記念日の未明、東京は嵐を思わせる豪雨で、これを書いている今も雨が降っている。憲法記念日にここまでの荒天に見舞われたのはちょっと記憶にない。

ゴールデンウィークの谷間の平日だった一昨日、昨日にもブログを更新できなかった。このまま連休中は更新しないでおこうかと思っていたが、憲法記念日の1面が、選挙制度の根本に触れないまま「一票の格差」解消のみ求め、しかも「首相公選制、賛成68%」などという見出しもついている世論調査の記事だったのでこれに呆れ、朝日新聞を批判する記事を書いてみようと思い直した。

まず「朝日新聞デジタル」に無料公開されている記事を引用する(下記URL)。
http://www.asahi.com/politics/update/0502/TKY201205020376.html

一票の格差放置で総選挙、反対53% 朝日新聞世論調査

 憲法について朝日新聞社が実施した全国世論調査(電話)によると、衆院小選挙区の「一票の格差」が違憲状態のまま、衆院を解散し、総選挙をすることについて、「してもよい」は27%で、「するべきではない」が53%と大きく上回った。違憲状態を放置している国会に対し、有権者の厳しい視線が示された。

世論調査 ― 質問と回答〈4月21、22日実施〉

 最高裁は昨年3月、一票の格差が最大2.30倍となった前回衆院選を「違憲状態」と判断。格差を2倍より小さくする案が与野党で議論されているが、まとまる見通しは立っていない。

 このような状態での総選挙について「するべきではない」と答えた人は、住んでいる自治体の規模が大きいほど、増える傾向にある。人口5万人未満の市町村では「するべきではない」39%、「してもよい」36%だが、東京23区と政令指定都市では59%対24%だった。

 また、一票の格差をどの程度まで許容できるかを聞いたところ、「1倍に近くする」20%、「2倍より小さければよい」51%で、「2倍以上でもよい」はわずか13%だった。

■首相公選制、賛成68%

 一方、憲法改正については、全体をみて改正する「必要がある」は51%(昨年54%)、「必要はない」は29%(同29%)だった。

 戦争放棄と戦力不保持を定めた9条を「変えるほうがよい」は30%(同30%)で、「変えないほうがよい」は55%(同59%)。全体で改正の「必要がある」と答えた人でも、9条については「変えるほうがよい」は44%、「変えないほうがよい」は43%と並んだ。

 9条が日本の平和や東アジアの安定にどの程度役立つと思うかを聞くと、「大いに」「ある程度」を合わせて66%が「役立つ」と答え、「あまり」「まったく」を合わせた「役立たない」27%を大幅に上回った。

 憲法を改正し、首相を国民が直接選ぶ公選制にすることには、賛成が68%と圧倒的に多く、反対は17%。衆参両院ある国会を一院制にすることには、賛成は42%で、反対38%を少し上回った。ただし、憲法改正の手続きを緩和することには、賛成36%で、反対45%の方が多かった。

 「進まない政治」の原因は、どちらかといえば、政治家にあるのか、憲法に基づく制度にあるのか、と聞いたところ、「政治家にある」は67%で、「制度にある」の20%を引き離した。

 調査は4月21、22日に実施した。

(朝日新聞デジタル 2012年5月2日22時27分)


世論調査結果を報じるトップ記事の横には、「座標軸」と題したコラムに、大野博人論説主幹が「投票ボイコットさせる気か」と題された論説を書いている。副題は「憲法記念日に問う」。記事は、昨年3月に最高裁によって「違憲状態」と指摘された「一票の格差」を放置したまま選挙をしても、選挙区によっては無効になる恐れがあるから、「そんな政治イベントに唯々諾々と応じて投票していいものかどうか。国民は切なく情けない思案に暮れることだろう」と書いている。

だが、これはいささかズレた問題意識ではないかと思わずにはいられない。国民の多くは、「一票の格差」以前に、投票したい政党や候補者がないことに絶望しているのではないかと思われるからである。

「RealPoliticsJapan」というサイトに、森喜朗内閣末期の2001年1月以降の内閣支持率と政党支持率の変遷のグラフが掲載されている(下記URL)。
http://www.realpolitics.jp/research/

森喜朗内閣の末期に、同内閣が記録的な低支持率を記録したが、その直後小泉純一郎が総理大臣に就任し、空前の人気を博した。その直後小泉純一郎内閣が発足して空前の人気を博し、小泉の後を継いだ安倍晋三も内閣発足時の2006年9月には小泉と同じくらいの高支持率を得たが、それから麻生政権末期に向かって安倍、福田康夫、麻生太郎と続いた内閣は真っ逆さまに支持率を落としていった。代わって2009年の「政権交代」選挙で鳩山由紀夫内閣が高支持率を得たが、やはり菅直人、野田佳彦と続いた内閣で支持率を暴落させている。そして、「野ダメ」こと野田佳彦内閣の支持率が20%台前半に落ちてきた現在、自民党の支持率は森政権末期の頃と同じくらいに落ち、民主党の支持率も2003年の民由合同当時と同じくらいにまで落ちた。一方で、「支持政党なし」は森政権末期と同じくらいの高率になった。11年前に回帰した形だ。

現在注目されているのは、2001年の小泉政権成立時や2005年の「郵政総選挙」時には小泉自民党、2009年の「政権交代選挙」時には民主党支持へと流れたあげくにいずれも裏切られた民意が、橋下徹の「大阪維新の会」に三度だまされる、もとい幻想を抱いてしまうのかということだ。橋下と「大阪維新の会」は、私に言わせれば、小泉自民党や松下整形塾系の主流派と小鳩系の反主流派が抗争を繰り広げている民主党よりさらに危険な存在である。その橋下は「首相公選制」の主張を「改憲」への足がかりにしようとしているように見える。

ところが、その橋下の脅威に対しては、朝日新聞は何の警告も発さない。「首相公選制、賛成68%」などと見出しをつけ、2面には、「突き上げる橋下市長 政治制度を覆す憲法改正案」との見出しで、橋下の改憲への動きを「客観報道」のスタイルで報じている。記事には、

橋下氏は、保守層などに根強い9条改正論への賛否は明らかにしない。

と書かれているが、橋下は今年2月24日にこんなTwitterを発している。

世界では自らの命を落としてでも難題に立ち向かわなければならない事態が多数ある。しかし、日本では、震災直後にあれだけ「頑張ろう日本」「頑張ろう東北」「絆」と叫ばれていたのに、がれき処理になったら一斉に拒絶。全ては憲法9条が原因だと思っています。


中曽根康弘らが似たようなことを口にしたと報じられたが、中曽根の目の黒いうちの改憲はさすがにもう不可能だろう。だが、橋下の持ち時間は長い。それなのに朝日新聞は橋下の危険性を指摘しない。

かつて小泉自民党や民主党に期待して裏切られた有権者が、性懲りもなく橋下に「変革」を託そうとするのも、トレンドに乗っかって多数派に加わらない限り、有権者自身の意思が政治に反映されないと思えてしまうからなのではないか。つまり、「与党にならなければ何も始まらない」というわけだ。かつての「1と2分の1政党制」の時代、社会党は万年野党だったが、自民党の政策に修正を加える程度の影響力はあった。今はそれさえもない。だから、有権者も政治家もその時々にもっとも勢いを得ている人間にすり寄る。非常にリスクの大きな状態である。

私は、小選挙区制こそ政治を悪くした元凶の一つであると思うし、同様の主張が多くの論者からなされるようになったにもかかわらず、今朝の記事で朝日は小選挙区制の是非の議論から逃げていた。比例区定数削減にこだわる民主党と比例区議員の多い公明・共産・社民各党が対立していることを「客観報道」のスタイルで伝えるのみであって、朝日自身は小選挙区制が政治に与えた影響について評価を下さない。それでいて、しばしば議員定数削減をけしかけるような記事を書く。冗談ではない。

たとえば「みんなの党」は過激な改憲論を掲げているし、橋下と同様に首相公選制を求めているが、一つだけ共感できるのは選挙制度を「全てを比例代表制にせよ」と求めていることだ。但し、同党の主張は改憲を必要とする一院制であり、なおかつ過激な議員定数削減を求めており、これにはとうてい同意できない。

しかし、すべてを比例にすれば、有権者の投じた票が死票になる可能性は大幅に減る。小選挙区制では死票が大量に出る。これは「一票の格差」どころの話ではない。1996年に初めて小選挙区制下の総選挙が行われて以来、政治の劣化は劇的に進んだ。現在政権与党の民主党は、主流派の松下政経塾組、反主流派の小沢・鳩山グループを問わず、いずれも強硬な小選挙区制論で「政治改革」を推進してきた政党だ。彼らが言うように制度を変え、ついに彼らは政権についたが、政治の閉塞感はますますひどくなった。小選挙区制が彼ら自身を束縛しており、新党を作ったところで単独で動いても勝ち目はないので、橋下徹のような人気者に小沢一郎のようなベテラン政治家がゴマをすりまくる醜態を演じるていたらくだ。

しかし、こういう現状にもかかわらず、民主党はなお「比例区削減」に強烈にこだわり続ける。まるで「小選挙区制原理主義」にとらわれているかのようだ。民主党は、民意をゆがめる上、現在の政党支持率から考えて確実に自分たちに不利に働く「比例区定数削減」になぜそこまで血道を上げるのか、私にはさっぱり理解できない。不思議なことに、あれだけいろんな争点でぶつかる松下政経塾系主流派と小鳩系反主流派は、こと「比例区定数削減」に関しては信じがたいほどの一枚岩ぶりなのだ。

これと比較すると、定数減は当面小選挙区の「0増5減」だけにとどめておこうという自民党は、この件だけに関しては現実的な対応をとっているといえよう。

ここまでズタズタに劣化した政治の劣化をさらに進めようとする民主党の「比例区定数削減」への動きは狂気の沙汰以外の何物でもない。それを全く批判することなく、「一票の格差」のみを問題する、「憲法記念日」の紙面にしてはあまりにもお粗末な朝日新聞を見ていると、民主党と同様、朝日新聞の将来も限りなく暗いと言わざるを得ない。
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