きまぐれな日々

先週土曜日にネット仲間で集まる機会があったのだが、もっぱら話題になったのは橋下徹のことだった。

最近は小沢一郎を取り上げたエントリはあまりアクセスされないし、「小沢信者」のブログもどこも人気が暴落している。昨年の東日本大震災で小沢が雲隠れしていながら、姿を現すや菅内閣の倒閣運動にばかりかまけ、あげくの果てに民主党代表選で原発推進派の海江田万里を担いだ小沢一郎は、世の人々の支持を完全に失った。

代わってネットでは「脱原発」がトレンドになったが、こちらも上杉隆や岩上安身ら「自由報道協会」の連中だとか、群馬大の早川由紀夫などといった輩が「脱原発」を毀損し、彼らのせいでまともな「脱原発」派まで信用を失いかねない状態になっている。先週も、『週刊文春』3月1日号に掲載された、福島県から札幌に避難している人に「放射線に起因する甲状腺がん」が疑われる異常が出ているとした記事が「自由報道協会理事・おしどりマコ」と「週刊文春取材班」による虚報であることがわかって騒然となった。

この「おしどりマコ」というのは、「おしどりマコ&ケン」という大阪の「夫婦音曲漫才師」らしい。但し「マコ」こと衣笠雅子は神戸の出身で鳥取大学医学部生命科学科を中退している。そこで学んだ半可通の放射線障害に関する知識にもとづいて「脱原発」の活動をしているもののようだ。『マガジン9条』にも連載コラムを持っている。だがなんといってもいかがわしいのは、この「マコ」の「自由報道協会理事」という肩書きだ。こんなのをレギュラー執筆陣に抱える『マガジン9条』自体も、相当いかがわしいと評するほかない。

この虚報騒ぎについては、『kojitakenの日記』でも紹介したが、そこからリンクを張ったJ-Castニュースの記事「週刊文春に『言ってないこと書かれている』 『甲状腺がん疑い』記事に医師が反論」(下記URL)を参照されたい。
http://www.j-cast.com/s/2012/02/24123372.html?p=all

今こういう虚報を垂れ流していると、仮に将来本当に放射線障害によると思われる甲状腺がんの罹患が増える事態が生じたとしても、すぐに信じてもらえなくなる恐れがある。いや、それ以前に今「リスク厨」とされている人たちは、数年後には東電原発事故のことなどきれいさっぱり忘れ去って、他の何かに熱狂している可能性が高いと思うが。

そして、こうした「一部脱原発派の暴走」と通底しているのが現在の「橋下ブーム」だろうと考える次第だ。

橋下徹の暴走はとどまるところを知らない。たとえば、大阪市営バス運転手の給与を一挙に4割削減すると言い出した。以下毎日新聞記事(下記URL)より引用する。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20120226k0000m040102000c.html

大阪市:市営バス運転手の給与4割削減へ 労組の反発必至

 大阪市交通局は、民間バス会社より高額と指摘されている市営バス運転手の年収(平均739万円)について、来年度から4割程度削減する方針を固めた。「民間並みに合わせる」との橋下徹市長の方針に基づき、在阪の大手私鉄系バス会社の最低水準に引き下げる。交通局は週明けにも橋下市長の了承を得て労働組合に削減案を提示するが、労組の反発は必至とみられる。

 交通局によると、市営バス運転手は計約700人。平均年収(49.7歳)は、在阪大手5社(阪急、南海、京阪、近鉄、阪神)の平均(44.5歳、544万円)より195万円高い。しかし、バス事業は28年間、赤字決算が続いており、累積赤字は10年度で604億円に上っている。

 運賃収入に見合った給与体系とするよう橋下市長から指示を受けた交通局は1月下旬、民間の平均をやや上回る2割強の削減案を橋下市長に提案。「これまでにないすさまじい削減」(交通局幹部)としたが、橋下市長は「民間は赤字を出さないよう必死なのに、赤字だらけの交通局が民間平均なのはおかしい」と突き返した。

 このため、交通局は削減案を練り直し、在阪大手5社のうち最低水準の近鉄(447万円)、南海(441万円)程度まで引き下げる方針を決めた。

 給与カットには条例改正が必要。市交通局側は労使交渉での妥結を経て、今月28日~3月27日に開かれる2月議会で可決させ、4月1日からの実施を目指したい考え。実現すれば20億円以上の人件費削減となるという。

 市役所全職員の給与は来年度から平均7.2%削減される。交通局の現業職員約5400人の給与は更に引き下げることとしており、バス運転手の下げ幅が最大になる見通し。【津久井達】

毎日新聞 2012年2月26日 2時30分


だが、この件に関して『広島瀬戸内新聞ニュース』は下記のように指摘する。
http://hiroseto.exblog.jp/17427447/

橋下市長よ、すでに平松市長で運転手給与は民間以下をめざしています

橋下市長は、バスの運転手の給料を下げる、とおっしゃっています。

しかし、すでに、関元市長、平松前市長が進めている給与構造改革で、今後は、運転手給与は、府内の民間事業者の平均未満にしか上がらない設定になります。

給与体系を見直してから効果が出るまでにタイムラグはあります。ありますが、運転手側にも生活があるからやむを得ない。なん年かかけて人件費を削減すればいい。せいてはことをし損じます。

大阪市長選挙で交通局労組がヤクザのような手法で平松支持をおしつけたのはけしからん。

しかし、やっていいことと悪いことがありますよ、橋下さん。

http://www.kotsu.city.osaka.jp/ct/other000006100/ginou_roumu.pdf

(2)大阪府下民間事業者の平均給与月額
平均年齢 46.4歳
平均勤続年数 13.4年
平均給与月額 394,900円


2 今後の基本的な考え方
これまでの給与制度は年功的要素が強かったが、平成19年4月1日の給与構造改革により、今後採用される自動車運転手は、昇格(転職)せずに自動車運転手のままならば、給料は、最大でも給料表の2級最高額の353,300円までしか到達しないものとしている。
また、現在在籍する自動車運転手も新給料表の適用を受け、新給料表の1級、2級に格付けているため、そのほとんどが最大でも353,300円までしか到達しない。


(『広島瀬戸内新聞ニュース』 2012年2月26日)


リンクされているpdfファイルは「平成20年3月」の年月が記載された「大阪市交通局」の資料。平松邦夫前市長時代だが、前年(2007年=平成19年)11月の大阪市長選に敗れた関淳一元市長時代から検討されていたものと思われる。関、平松両氏も新自由主義的「カイカク」者だったが、それをさらにエキセントリックにしたのが橋下だといえるだろう。

上記の件は橋下得意の「公務員叩き」の政策だが、最近「船中八策」が不評で一頃の「草木も橋下になびく」状態から風向きが変わってきたので再び決め球を投げ込んだのだろうか。

過激な新自由主義政策で議論を呼ぶ「船中八策」は、一院制や首相公選制など「憲法改定」を前提とした政策が並ぶが、橋下はついに「憲法9条」をターゲットにするようになった。話題を呼んだのは橋下の下記Twitter。
http://twitter.com/#!/t_ishin/status/172897650386010112

世界では自らの命を落としてでも難題に立ち向かわなければならない事態が多数ある。しかし、日本では、震災直後にあれだけ「頑張ろう日本」「頑張ろう東北」「絆」と叫ばれていたのに、がれき処理になったら一斉に拒絶。全ては憲法9条が原因だと思っています。

2012年2月24日 - 13:16 ついっぷる/twippleから


「語るに落ちる」とはこのことで、これこそ「震災の政治利用」以外の何物でもあるまい。橋下の意図を伝える毎日新聞の記事を以下に引用する。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20120225k0000m010119000c.html

橋下市長:改憲で国民投票 維新の会公約に

 大阪維新の会代表の橋下徹・大阪市長は24日、戦争の放棄をうたった憲法9条の改正について「一定期間議論して、日本人全体で決めなければいけない」と述べ、2年かけて国民的議論をした上で、国民投票を実施すべきだとの考えを明らかにした。次期衆院選の政権公約となる「船中八策」に、憲法改正手続きを盛り込む方針だ。

 橋下市長は記者団に9条は「他人を助ける際に嫌なこと、危険なことはやらないという価値観。国民が(今の)9条を選ぶなら僕は別のところに住もうと思う」と述べた。

 また、消費増税については「今のような社会、年金、医療保険システムが前提なら、砂漠に水をまくようなものだ。抜本的に社会システムを変え、どこから税を取るかという話をしないといけない」と述べ、慎重な姿勢を示した。【原田啓之】

毎日新聞 2012年2月25日 1時33分(最終更新 2月25日 7時24分)


これこそ憲法9条の意義を倒立させた、橋下の倒錯した詭弁としか言いようのないしろものだ。橋下がこの発言をした同じ24日付の朝日新聞に掲載されたインタビュー記事で、天まで届かんばかりに橋下を持ち上げ、すり切れないほどのゴマをすった小沢一郎を支持するいわゆる「小沢信者」たちは、現在の教祖様と橋下のありようを見て何を思うのだろうか。

憲法9条をターゲットにした橋下のTwitterにつけられた下記「はてなブックマーク」のコメントが核心を突いていると思った。

Gl17 自分や身内はその落とされる命に絶対入らないという確信があるんだろな。色々理屈並べても反9条の本音は結局「俺のために誰か死ね」で、このツイートはカムフラージュ剥げて本質が露出しちゃった例かと。 2012/02/24


ところで、この「全ては憲法9条が原因」という煽り文句だが、何かに似ているような気がしたけれどもすぐに思い出せなかった。それを思い出させてくれたのが下記のサイトだった。
http://rocketnews24.com/2012/02/24/186374/

この記事によると、Twitterでなんでもかんでも「憲法9条のせい」にすることがはやっているらしいのだが、その中にこんなのがあった。

「阪神が優勝しないのは、全ては憲法9条が原因だと思っています」


これを見てやっと思い当たった。かつて阪神タイガースと中日ドラゴンズがプロ野球セントラルリーグ(読売の支配下にある方のリーグ)の優勝を争った時、両方のチームの監督を務めたことのある星野仙一が発した言葉がもとになってネットで大流行した「○○はわしが育てた」のネガティブ版だったのだ。

大阪の人たちに限らず、「大政治家」小沢一郎、「超左翼おじさん」、脱原発・自然エネルギー推進の中心的な論者のあの人、70歳を過ぎてもなおテレビの政治番組を仕切るあの人を筆頭とする「電波芸者」たち、平然と橋下に「理解を示す」A新聞の政治部次長やM新聞の論説委員などの新聞人、それに何も「小沢信者」にばかり限らず「リベラル・左派」的立場を取りながら橋下に歩み寄る姿勢を見せるネット市民たちは、「すべてを『憲法9条のせい』にする橋下徹はわしが育てた」という事実を直視していただきたい。
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今回も橋下徹にまつわる話題を3件取り上げる。

まず、前回のエントリで批判した、橋下が大阪市の職員に対して行なおうとしている「思想調査」の件。このアンケートは先週末の2月17日に突如停止された。以下読売新聞記事(下記URL)より引用する。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120218-OYT1T00140.htm

橋下氏なお強気「調査は当然」…労組は謝罪要求

 大阪市の橋下徹市長が「市役所と職員労働組合の関係をリセットする」として乗り出した職員対象の「組合・政治活動実態調査」が17日、突然、凍結された。

 長年続く「市役所と政治」の関係に線引きを迫る橋下改革に「待った」がかかった。

 橋下市長が調査を指示したのは、市長選を巡り、職員労組幹部が前市長の集会に出席するために職場を離れたことが発覚したのがきっかけだ。

 調査は橋下市長から依頼を受けた市特別顧問で調査チーム代表の野村修也弁護士が、違法な組合活動の有無を調べる狙いで発案。橋下市長の署名入り文書が添えられ、「任意の調査ではなく、市長の業務命令」「正確な回答がなされない場合、処分の対象となり得る」と明記された。

 市役所では長年、助役出身の市長が続き、職員労組の市労働組合連合会(市労連)が市幹部、市OB職員と一体となって市長の選挙運動を支えてきた。こうした職員労組と市長の蜜月ぶりが、ヤミ年金・退職金など常識はずれの職員厚遇の温床になった。

 橋下市長は、職員労組に市役所内の事務所明け渡しを求めるなど、市と職員労組の関係見直しに着手。今回の調査で「過去に特定の政治家を応援したか」「組合にはどのような力があると思うか」などと質問した。

 これに対し、市労連が「組合運営に介入する不当労働行為にあたる」として、大阪府労働委員会に救済を申し立てたため、野村弁護士は「法的手続きもあったので、真摯(しんし)に受け止める」と、調査凍結に踏み切った。

 野村弁護士は「調査チームの独立性が外部から確認しにくかったことが、多数の抗議が寄せられた原因の一つになった」と述べた。

 上脇博之(かみわきひろし)・神戸学院大法科大学院教授(憲法学)は「勤務時間外の政治活動の自由の保障は憲法上の大原則だ。今回の調査は政治活動の自由にとどまらず、思想・信条の自由や労働基本権など様々な人権を侵すもので論外だ」と批判する。

 市内部でも実施前に調査内容について異論が出たが、橋下市長が「違法でない限りはこれでいい」と押し切ったという。

 凍結後も、橋下市長は「踏み込んで調べるのは当たり前だ」と強気だが、市幹部は「問題意識はわかるが、荒っぽい」と話す。

 調査に回答した市職員は「職員労組の反発はわかっていたはずで、批判に堪えられるチェックをしていなかったのか」とあきれた。

 市労連の中村義男委員長は「既に不当労働行為が行われており、組合員に動揺が広がっている。組合員への謝罪が必要だ」と語った。

(2012年2月18日16時23分 読売新聞)


かくして、あえなく「思想調査」の凍結に追い込まれた橋下だが、記事にあるように「踏み込んで調べるのは当たり前だ」などとなおも強がっている。見苦しい限りだ。

2件目は、上記の「思想調査アンケート」が凍結されたのと同じ17日に、橋下が前日の夕方放送された毎日放送のローカルニュース「VOICE」にキレた件。この番組は16日、教育基本条例など橋下が推進しようとしている「教育カイカク」を、ブッシュ前大統領時代のアメリカで失敗した「落ちこぼれゼロ法案」になぞらえ、アメリカで失敗に終わったことを伝えたあと、アメリカの学者に大阪の教育基本条例の英訳文を見せてこれをコテンパンに批判させた。橋下は翌17日にTwitterを6連発してこの番組を批判したが、橋下のTwitterを『kojitakenの日記』の18日付エントリ「橋下、毎日放送(大阪)のニュース番組に痛いところを突かれてキレる(笑)」に記録しておいた。

だが、それよりも特筆すべきは、『Afternoon Cafe』が2月18日付で長大なタイトルのエントリ「大阪教育基本条例はアメリカで破たんした落ちこぼれゼロ法とそっくりと指摘した報道番組VOICEに逆上する橋下氏」(下記URL)をアップし、この記事に400件を超える「はてなブックマーク」がついたことだ。
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-776.html

これほど大反響を呼んだ記事だから、もはや改めて当ブログから紹介するまでもあるまいとは思うが、万一まだご覧になっていない方がおられたら、是非ご参照いただきたい。同記事や毎日放送のニュースでも報じられたように、アメリカの「落ちこぼれゼロ法案」も橋下の「教育カイカク」も、ともにイギリスのマーガレット・サッチャーの政策の影響を受けたものだ。そして、当ブログはかつて、安倍晋三がブッシュや橋下と同様、サッチャーの「教育カイカク」に強い影響を受けていることを再三批判したものだった。サッチャーの政策の2本の柱は国家主義と新自由主義であり、教育に市場原理を導入する行き方は後者の範疇に属する。本家のイギリスではサッチャーの「教育カイカク」は大失敗だったとの評価が定着している。橋下は、サッチャー、馬鹿ブッシュ、「KY」安倍晋三らの失敗を繰り返そうとしているに過ぎない。

余談だが、「小沢信者」たちは、小沢一郎が「橋下の悪口を言うな」と指示したことに従っているのかどうか、大阪在住者など少数の例外を除いて橋下への批判を手控える傾向が見られる。少数の橋下批判者にしても小沢一郎が橋下にすり寄っていることはスルーしている。このことも、橋下を増長させた要因の一つであるとともに、安倍晋三の復権をも後押ししているも同然であることをここに指摘しておく。

最後の3件目は橋下の経済政策について。橋下が資産課税やベーシックインカムを打ち出したことが話題になっている。『kojitakenの日記』にも短い記事を書いたのだが、橋下が打ち出している「ベーシックインカム」(以下BI)は社会保障や福祉の切り詰めとセットになっていることに注意する必要がある。

橋下にBIを吹き込んだのがいかなる人たちかは知る由もないが、新自由主義の系譜に連なる人たちは、BI(「負の所得税」に置き換えても良いが)と政府支出の切り詰めをセットにする構想を思い描いていることに注意が必要だ。上記『kojitakenの日記』のコメント欄で、BI論者の伊賀篤さんは下記のように書いている。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20120218/1329525824#c1329530551

「ベーシック・インカム」にせよ「負の所得税」にせよ、それだけで充分などとは、少なくとも左派の推進論者(湯浅氏や一橋大経済研究所の吉原氏)は言って無い訳で、実際には、障がい者への個別のケアやら、高齢者のへの個別のケアは、特定難病患者へのケア等、どうしても「お金」だけでは賄えないものであり、存続していかねばならないのは明白です。
左派の論者は、そこの所は良く解っているので、「ベーシックインカム」はあくまで再分配の問題のみに留め、それで福祉全てを代替しようなどとは考えていないのですが、ここが左派として【闘争】すべき場所なのだと(私は)思います。


これに対し、ミルトン・フリードマンはまさに「負の所得税」だけで社会保障や福祉をまかなおうとする思想を持っていたし、橋下のBIも同様の狙いに基づいていることは、『kojitakenの日記』でも引用した橋下自身の下記Twitterから明らかだ。

https://twitter.com/#!/t_ishin/status/170265966062739458

ベーシックインカムは不可能な制度だと言われています。だけど研究の一考はある。これは単純なばらまきではありません。福祉国家を歩みつつある日本。複雑怪奇な補助・助成制度。これによって行政組織は肥大化。色んな中間団体が存在し、天下りもごろごろ。これをバサーット整理する。


橋下が「バサーット整理する」対象は、何も天下りだけではなく、社会保障や福祉そのものであることは明らかだ。というより社会保障や福祉の削減にこそ橋下の真の狙いがある。

BIや「負の所得税」について言えば、これらが他の政策とどう組み合わせているかこそ重要なのであって、BIや「負の所得税」だけを切り取って、再分配政策だ、いや新自由主義の思想に基づく政策だ、と議論することには意味がない。ただ、BI(や「負の所得税」)は、しばしば橋下の例に見られるような「経済右派」が「小さな政府」を目指して掲げる政策であることには注意が必要で、再分配を重視し、福祉国家を志向する「経済左派」がBIを掲げる時には、それを政府サービスの縮小の口実に使う「経済右派」の行き方とは全く別物であることをはっきりと示さなければならないと思う。さもなくば、今回見られたように橋下の政策を「再分配重視」だなどと誤解させる原因になってしまう。

例によって長くなったが、「思想調査」にせよ、サッチャリズムまんまの「教育カイカク」にせよ、極端な「小さな政府」を志向する過激な新自由主義経済政策にせよ、橋下徹に評価すべきものなど何もない、というのがこの記事で言いたかったことである。
橋下徹がいよいよ本性をむき出しにしてきた。

大阪市の職員に対して「思想調査」を始めたのである。各紙に報道されている。『kojitakenの日記』の10日付エントリ「橋下、本性をむき出し。大阪市職員に『思想調査』」では10日付朝日新聞(大阪)の記事を紹介したので、こちらでは11日付毎日新聞(大阪)の記事を紹介する。

http://mainichi.jp/area/osaka/news/20120211ddlk27010306000c.html

大阪市:職員の政治活動調査を開始 組合側、反発 /大阪

 大阪市は10日、職員全員(約3万8000人)に対し、政治活動に関与したかを尋ねるアンケートを始めた。労働組合に関する質問項目も多く、組合側は「団結権の侵害だ」と反発している。

 昨年の市長選などで政治活動と疑われる行為があったとして、橋下徹市長が調査を指示。文書で配布し、記名での回答を義務付けている。

 アンケートは、特定の政治家を応援したことがあるか▽候補者の推薦人カードを配られたことがあるか▽組合に加入しないと不利益があると思うか--など22項目。市の特別顧問が集約し、職員の政治活動を制限する条例案にも反映させる。

 これに対し、市労働組合連合会は「業務命令として思想に関わる部分にまで回答を強要することは不当労働行為だ」として、撤回を求めている。【茶谷亮】

(毎日新聞 2012年2月11日 地方版)


問題の「思想調査」のアンケートだが、ブログ『教育基本条例NO!』の記事「橋下市長が業務命令で、大阪市職員へ思想チェック・組合破壊『アンケート』」からpdfファイルにリンクが張られており、アクセスすることができる。上記のブログ記事も書いているように、強制的な思想調査、不当労働行為そのものである。

この件に関しては是非アンケートのpdfファイルをご参照いただきたい。単なる「思想調査」というにとどまらず、実質的に密告を奨励している。旧東ドイツの秘密警察「シュタージ」になぞらえた人を複数見かけた。私はというと、昔読んだジョージ・オーウェルの小説『1984年』を思い出した。ちなみに、私がこの小説を読んだのは28年前の1984年1月1日だった。当時、この小説はスターリニズムを皮肉ったと評されていたが、東側諸国の中でも東ドイツのシュタージのえげつなさはよく知られている。

そういや橋下と『1984年』を結びつけた記事がネットにあるのではないかと思っていたら、案の定あった。それも、『1984 blog』という名前のブログで、橋下が大阪府知事選に当選してから半年あまり経った2008年9月6日付エントリ「ビックブラザー橋下知事が職員隠し撮り」という記事である(下記URL)。

http://1984.asablo.jp/blog/2008/09/06/3748515

ビックブラザー橋下知事が職員隠し撮り2008/09/06 23:01

東京新聞の記事には驚いた。あのうさんくさい人ならやりかねない。ナチスも選挙で選ばれたのではなかったろうか。
本当に「民間だったら当たり前」なら、日本版新ナチス既に深く進行中ということだろう。十分にありえるが。部下よりも、この人の頭のなかを、常時モニターしないと危険なのではなかろうか?冒頭部分を引用させていただく。

橋下知事が職員隠し撮り 仕事ぶり点検と

2008年9月6日 20時06分

 大阪府の橋下徹知事が、財政再建のため廃止の方針を打ち出した国際児童文学館(同府吹田市)で、職員の様子をビデオカメラで隠し撮りさせていたことが6日、分かった。職員の仕事ぶりをチェックするためとしているが、調査方法が妥当かどうか議論を呼びそうだ。

 橋下知事は記者団に「民間だったら当たり前で、本当にやっているかをチェックするまでが僕の仕事のやり方」と説明。映像を見た感想を「あれだけ騒がれている中で、(利用者を増やす)何の努力の形跡もうかがわれない状況だった」と述べた。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008090601000569.html

(『1984 blog』 2008年9月6日付エントリ「ビックブラザー橋下知事が職員隠し撮り」)


4年前の記事なので、東京新聞の記事はもうリンク切れになっているが、朝日新聞の記事(2008年9月6日付)は今でもリンクが生きている。昨年11月22日の下記Twitter経由で知った。
http://twitter.com/#!/heibay/statuses/138770416939442177

ジョージ・オーウェルの『1984』だね。RT@change_osaka 橋下徹氏は、府立施設の職員を「隠し撮り」していました。とても陰湿ですね。 まるで、独裁国家の「監視社会」みたいです。(朝日新聞の記事)⇒http://www.asahi.com/special/08002/OSK200809060040.html


石原慎太郎ですらこんなことはやらないと思うが、大阪府知事時代から橋下はこんなことをやっていたのである。ひところ、橋下を「独裁者」と呼ぶのは間違っているとの議論がしばしばなされ、当ブログにもそのようなコメントが多く寄せられたが、私はそれを「したり顔の議論だなあ」とずっと思っていた。橋下が「独裁志向」を強く持っていることは疑う余地がない。

橋下の「大阪維新の会」が策定中の「船中八策」という坂本龍馬かぶれのネーミングの政策集に「参議院の廃止」が含まれているらしいが、要するに憲法を変えるということだ。これに限らず、橋下の増長はとどまるところを知らないのだが、これに対して訳知り顔で「『脱原発』に頑張る橋下市長を応援しよう」と言っていた2001年の共産党九州・沖縄比例区公認候補の松竹伸幸氏や「政策の実質・実現などリアルを問い続ける橋下市長と問題意識とアプローチが全く同じで共感する」とつぶやいた「脱原発・自然エネルギー推進」の代表的論者・飯田哲也氏はどう申し開きするのか。誤りを認めて方向を転換しない限り、両氏は「知識人失格」と言っても過言ではないと私は考える。

4年前の橋下の悪行を書いた記事のリンクを残している朝日新聞も、今は見る影もない。普段はネットには絶対に出さない「オピニオン面」のインタビュー記事を、橋下へのインタビューに限って無料で公開している。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201202110424.html

私は朝日新聞本紙(2月10日付)で読んだが、橋下の主張はテレビで聞くともっともらしい迫力があるけれども、文章にすると悲しいくらい中身がスカスカだとの印象を受けた。タイトルに「選挙、ある種の白紙委任」とあるが、これが橋下の本質なのだろう。選挙に勝った者は何をやっても良い。そううそぶく橋下が口にする「再分配」など、空しい限りだ。
今回はまた原発の話に戻るが、このところ「脱原発」がらみで書くのはいささか気が重くなってきている。

一つは、「脱原発」が「ハシズム」に回収されかかっている件であり、中でも脱原発・自然エネルギー推進の論者として東電原発事故以来名を上げた飯田哲也がTwitterで橋下徹を絶賛した件にはいたく失望させられた。この件に関しては『kojitakenの日記』のエントリ「『敵の嫌がることをやる』橋下徹侮り難し。小沢一郎は顔色無し」に書いたのでここでは繰り返さない。

飯田哲也のような著名な「脱原発」論者の「ハシズム」への回収と並行して起きているのが、一部の「脱原発派」の「カルト化」だ。中でも目を覆いたくなるほどひどかったのが、さる有名ブロガーが3月11日に福島県郡山市で行なわれる予定の反原発集会の呼びかけ人に名を連ねているにもかかわらず、「『汚染地域でのイベント』だのって放射能に浪花節や精神論で立ち向かうバカは自分だけで被曝してろ!」と暴言を吐いたことだ。

当ブログにもしばしば被災地にお住まいの方からコメントをいただくが、「脱原発」運動に福島を利用するな、という声が多い。「3.11」のイベントに関していえば、東電原発事故が起きた日でもあるが、それよりも東日本大震災が起きた日であり、被災地の方々にとっては静かに祈りを捧げる日のはずだ。その日に福島で「脱原発」の集会を行い、そこでコンサートや行進が行なわれること自体、その意図はどうあれあまり良いアイデアとは私には思われない。私は阪神大震災の起きた「1.17」には極力余分な記事を書かないようにしているが、それは既に転居していたために自分自身や家族を含めて被災こそしなかったものの、それ以前に十年以上住んでいたことのある場所で起きた震災で被災された方々に思いを致すためだ。ましてや東日本大震災は昨年起きたばかりなのだ。その日に東京から福島に日帰りの「バスツアー」を組むというのは、あまりに「東京中心」の発想ではないか。それどころか、「汚染地域でのイベント」云々と暴言を吐くに至っては、あの早川由紀夫と同類としか思えない。もっとも彼らのクラスタはほぼ手放しで早川由紀夫を礼賛しているから、まさしく「類は友を呼ぶ」ではあるけれども。

上記は極端な悪例だが、「類は友を呼ぶ」例はあちこちで見られる。「南京大虐殺を犯した日本軍兵士は福島出身だった、東日本大震災も日本がこれまでに犯してきた罪を清算しないがために起こったカルマではないか」などと石原慎太郎も真っ青な暴言を吐いた者もいっぱしの「脱原発」論客気取りで、それに対して仲間内からとがめる声ひとつ上がらない。彼らのクラスタは陰謀論や捏造も大好きだ。以前にも書いたと思うが、すぐに「工作員を発見した」と言いたがる、東電福島第一原発で働いていたこともあるらしい九州の某開業医は、原発事故と無関係に亡くなられた方の死因を事実をねじ曲げて原発事故と関連づける印象操作を行ない、抗議を受けるとブログのコメント欄を閉鎖した。こういう人非人であっても「脱原発」さえ掲げていれば許されるのがこのクラスタの特徴である。彼らの多くは「小沢信者」でもあるが、小沢一郎が「脱原発」の邪魔しかしてこなかったことは周知の事実だ。

上記のような悪例が日頃から奇矯さで知られる「小沢信者」にとどまっているならまだ良いのだが、「汚染地域のイベント」云々と抜かした人間は社民党党首の福島瑞穂とつながっている。私はもうだいぶ前から社民党に完全に匙を投げており、今後は自民党や民主党に加えて、間違っても社民党なんかに投票してやるものかと思っている。

以上のように極端にひどくはなくとも、同じ脱原発派の学者でも他の論者より少しでも楽観的な見通しを口にする人が「物足りない」と評されることもある。具体例を挙げれば、京大反原発6人衆の今中哲二氏は、小出裕章氏に比べて「予想が楽観的なので物足りない」というのだ。まるで東電原発事故の被害がもっとひどくあってほしいと言わんばかりで、そんなことばかり言っているから「脱原発」が「ハシズム」に回収されてしまうんだろうが、と毒づきたくもなる。

そんなのばかりが目についてうんざりしていたところに、昨日、目のさめるような論考に接した。猪飼周平・一橋大准教授が書いた「原発震災に対する支援とは何か ―― 福島第一原発事故から10ヶ月後の現状の整理」と題する記事である(下記URL)。
http://synodos.livedoor.biz/archives/1891136.html

長文の記事だが、是非とも原文を直接お読みいただきたい。広く読まれるべき論文だと思う。著者は、福島の放射能汚染地域に残る選択をする人たちが多いが、決してメディアが「安全」を煽るために騙されているのではなく、被曝の危険を十分承知の上で残っていることを指摘する。著者は書く。

私がここで福島に留まる人びとの存在を強調しているのは、特に、東京を始めとする域外で発言する人びとが、避難こそが「人道」に叶っていると考える傾向があるようにみえるからである。そもそも、今日の論争の構図である「避難か除染か」という2項対立自体、避難する人と留まる人が両方あるという前提を踏まえていない。そして、上のような避難論者は、少なくとも現状では少数派の選択肢に肩入れしている。とすれば、彼らは2重に実態を踏まえていないということになる。その意味では、私たちにとって、まず福島県の人びとが、「遊牧民」的な東京人よりははるかに「定住的」であるということを踏まえることが何より重要であるといえるだろう。

(猪飼周平「原発震災に対する支援とは何か ―― 福島第一原発事故から10ヶ月後の現状の整理」より)


この件を議論は著者が指摘するこの点を踏まえて行なわれるべきだと前々から私は考えている。だから、「汚染地域でのイベント」云々などとほざく輩にはいつも腹を立てている。彼らは「除染」と聞くだけで拒絶反応を示し、例えば猪飼氏の論文にも言及される児玉隆彦氏を「除染を推進している」として「御用学者」扱いさえするのだが、そんなのの親玉のような某有名ブロガーとつるんでいるのが左翼少数政党の党首なのである。避難や移住を選択する人たちと現地に残る選択を選択をする人たちの両方を支援していかなければならないのは当然ではないか。

いや、論外の人たちのことはもう書くまい。著者の指摘にはいちいちうなずかされることが多い。原発震災に対する専門家の支援は、原則として住民主体でなければならないことはもちろんだが、特に鋭いと思うのは、国民が総じて福島の人びとの被曝に対して冷淡であるために、福島の人びとに対して十分な税金が投入されるということについて、国民的合意ができないことと、「現在の民主党政権に、福島の人びとに冷淡な態度を取る国民に責任を取ることを呼びかけるだけのリーダーシップが欠けている」ことの2点の指摘だ。

民主党政府の政治家として、具体的には細野豪志原発相の名前を挙げているのだが、著者は下記のように書く。

私は、細野原発相は、彼のもつ誠実さの限りを尽くしてこの問題に当たっていると思う。だが、究極的責任が国民にあるということを国民にわからせることができなければ、彼の被災地住民に対する約束の多くは、「やろうとしたけれどできませんでした」という形で反故にされ、最終的には、できもしない約束をしたことで、被災地がその約束を前提として振舞うようになる分だけ、現地に害をなす結果となるだろう。たとえば、人びとが「待ち」の姿勢を取ることで福島の人びとの総被曝量は増大することになる 。

原発震災の結果として、世論は脱原発の方向性を支持するようになっている。このことは、国民が原発震災について「反省」していることの証左であるといえるであろう。だが、それでもなお、日本人が考えるべきは、脱原発を実現しても、福島の地が放射能で汚染されたままであること、福島の人びとが日々被曝しつつあるということ、そして福島の人びとがそのことで大きな精神的苦痛を強いられていることのどれ1つとして解決されるわけではないということである。

私は、現在の政治状況を前提とすると、残念ながら国民に、福島の人びとを納得させられるレベルまで「元通り」にする責任を自覚させることは極めて難しいと思う。とすれば、問題を解決するには、結局のところ国民全般の態度を変えてゆくよりも、福島の地と人びとの抱える問題をなんとかしたいと考えている人びと(マジョリティではなくとも、たくさん存在する)が、どんどん問題解決に動いてしまうのが一番よいと思われる。市民社会的解決法といってもよい。

(猪飼周平「原発震災に対する支援とは何か ―― 福島第一原発事故から10ヶ月後の現状の整理」より)


これ以上の下手な紹介は止めておく。読者の皆さまには、とにかく一度猪飼周平氏の論文をよくお読みいただきたいと思う次第だ。