7月23日付および7月25日付のエントリに引き続き、金子勝とアンドリュー・デウィットの共著 『環境エネルギー革命』(アスペクト、2007年)の紹介記事の第3回。
地球温暖化を扱った第3章に続き、第4章「日米蜜月がもたらしたもの」は、地球温暖化問題に消極的で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)を攻撃する米ブッシュ政権に、小泉純一郎首相(当時。以下「コイズミ」と呼称)がいかに協力的だったかを指摘している。環境問題をめぐるヨーロッパとアメリカの対立に対し、コイズミは明らかに米国寄りのスタンスをとった。
ブッシュ政権が「地球温暖化」という言い方自体を嫌ったため、アメリカではこの問題は「気候変動」と称される。そして、許しがたいことにブッシュ政権は科学者たちの研究に介入、妨害を繰り返してきた。気候変動に関する議論を鎮圧しようとするブッシュ政権の試みについて、NASAの科学者ジェームズ・ハンセンは2004年10月26日、アイオワ大学の講演で、「政府で3年以上働いているが、これほど科学者から一般聴衆への情報の流れが審査され制御されたことはいまだかつてない」と語った。
アメリカ以外でも、サウジアラビアや中国、ロシアなどは地球温暖化論議を嫌っていて、昨年のIPCC報告書から「二酸化炭素の排出レベルが気温上昇やその影響にどう関係するかを示す表」を削除させたといくつかのメディアは報じた。
四周を海に囲まれ、食料自給率の低い日本は、本来環境問題に敏感でなければならないのに、コイズミが極端にアメリカ追従の政策をとったことによって、日本は海外メディアから批判的に見られ、世界における政治的・経済的地位を失っていった。しかし、御用メディアと化した日本のマスコミはコイズミを批判するどころか礼賛した。その結果、安倍晋三内閣という史上最低最悪の政権が生まれ、日本の国益をさらに大きく損ねることになった。
著者は、昨年のハイリゲンダム・サミットで安倍晋三が持ち出した「美しい星50」というキモチワルイ名前の提案を、「基準年のないCO2削減目標であり、かつ具体性のない自発的アプローチにすぎない」、「明らかにドイツサミットにおけるメルケル独首相の提案を妨害すし骨抜きにする提案であり、イラクに次ぐブッシュの後方支援の提案に他ならない」と酷評している。そんな提案を、いまだに田原総一朗は絶賛しているのだから、呆れた御用ジャーナリストというほかない。
ブッシュ政権は、「地球温暖化」を「気候変動」と言い換えようとしているが、著名な環境保護主義者ジェレミー・レゲットは、地球温暖化を「地球の過熱、気候の混乱、もしくは気候の崩壊と表現すべき」と主張している。そういえば、4年前の2004年、四国は次々と台風の来襲を受け、多くの死者を出したほか、高松市でも高潮によって2万戸以上が浸水した。この年の夏から秋にかけては、熱帯かと思うような荒々しい天気が続き、ひどい異常気象の連続に参ったものだ。
さて、本の第5章は「環境問題のコストは本当に高いのか?」と題されている。この問いに対し、著者らは「環境保護が経済利益をもたらす」と答えている。実は、私が最近環境エネルギー問題に関心を持つようになったのは、多くの文献が、環境エネルギー技術が経済成長につながると指摘していることによるところが大きい。特に、ドイツや北欧諸国の例がよく言及される。北欧諸国は、社会民主主義をとり、過酷な新自由主義に苦しむ日本国民が最近羨望のまなざしを向けていることはいうまでもない。社会保障と経済成長を両立させているといわれる北欧諸国の成功の秘訣はどこにあるのか。私も興味津々である。
環境問題のコストについては、著者は、昨年のIPCCの報告書が、気候変動の対策コストがさほど高くないことを示し、問題に決着をつけたとしている。そして特筆すべきは、最近、アメリカの高級紙が次々と地球温暖化問題に目を向けるようになったことだ。ところが、日本ではビジネスマンに信頼されているらしい日経新聞が、IPCCに対する懐疑論を紙面に掲載するなどした。
脱線するが、2000年に「巨人(プロ野球・読売ジャイアンツ)が優勝したら景気が良くなる」というナベツネ(渡邉恒雄・読売新聞会長)の妄言を、日経新聞がさも事実であるかのように紙面に載せたことがあるが、この年巨人が優勝した直後にITバブルが崩壊した。巨人が優勝したら景気が急に悪化したのである。これを見て私は日経をあざ笑い、この新聞をイエローペーパーとみなすことにした。私は90年代末から一時この新聞を購読していたのだが、この件がきっかけになったわけではないが、高いだけで中身の薄いこの新聞に見切りをつけて購読をやめた。
ま、日本の低劣なマスコミのことなどどうでも良い。アメリカに話を戻すと、変化し始めたのはアメリカのメディアだけではなく政治家も同じで、民主党の大統領候補バラク・オバマだけではなく、共和党のマケインも温暖化対策に積極的だ。もっとも、マケインの場合は原発推進派らしいから、例の地球温暖化陰謀論が当てはまる数少ない例外に当たるかもしれない。
著者は、「気候変動の科学において、唯一目立った分裂があるのは米国の共和党内部だけのようだ」と皮肉たっぷりに書いている。アメリカの高級紙の論調や民主党の政治家などが、地球温暖化問題への関心を高めている一方で、共和党だけは温暖化議論の正当性を認める議員が2006年には23%、2007年にはさらに減って13%になったという。日本のネット右翼や地球温暖化陰謀論を唱える一部ネット左翼は、米共和党の政治家たちと親和性が高いようだ(笑)。
だが、米共和党でも、カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーのように、西部の4州(ニューメキシコ、オレゴン、ワシントン、アリゾナ)を結集して炭酸ガス排出取引の仕組みを作った人もいる。そして、著者はブッシュまでもが(!)環境派に変わりつつあると指摘している。ブッシュは、政策的には利権の絡みから地球温暖化問題にはきわめて消極的なのだが、私生活ではテキサス州クロフォードにあるブッシュの牧場には地熱ポンプがあり、9万5千リットルの地価貯水池で雨水を集めているそうだ。
いずれにしても、アメリカの環境エネルギー政策は、2009年1月の新大統領就任とともに、劇的に転回されるはずだ。特に、バラク・オバマが大統領になったら、その政策転換はより極端なものになるだろう。ヨーロッパでは、日本会議(平沼赳夫や安倍晋三を擁する日本最大の右翼団体)やネット右翼から目の敵にされているスウェーデンが代替エネルギーにおいて世界のリーダーになっており、最近ではイギリスの台頭もめざましいそうだ。1973年にはスウェーデンはエネルギーの石油依存度は日本と同じ77%だったが、今では大差がついた。また、イギリスはいまや保守党が炭素税の導入を提案している。かつて、新自由主義の先駆者であるマーガレット・サッチャーは、極端な課税反対主義をとっていたが、いまやかつての政策を180度転換しているのだ。しかし日本は、特に安倍晋三や平沼赳夫などに顕著なのだが、大昔のサッチャーカイカクを取り入れようとするアナクロぶりだ。日本のネット左翼の間にも、民主党が社民党と接近するより、平沼一派と接近するのを望む人も多いようだが、たぶんサッチャリズムと親和性の高い人たちなのだろうと想像している(笑)。
第5章の最後で著者は、「それでも原子力頼みの日本」というサブタイトルで、相も変わらず口を開くと原子力しか言わない日本の政策を厳しく批判している。日本のメーカーは、太陽電池生産のシェアを大きく落としており、いまや太陽エネルギー部門は、「技術はヨーロッパにあり、需要はアジアにある」といわれる状況だという。
それなのに、日本はいまだに原子力発電に固執しているのだ。著者は、「原子力発電のロビイストは、研究開発の予算の大部分を確保しており、特に永田町の政治家とつながっているようだ」と書き、それに対し、オクスフォード・リサーチ・グループが「原子力は非常に危険である」うえ、「二酸化炭素排出量の削減に貢献するには不十分だし、貢献できたとしてもそのプロセスは遅い」と指摘していることを対置して紹介している。
私も、原子力発電の推進など百害あって一利なし、現在ある原発はもうどうしようもないけれど、今後新規の原発の建設はすべて中止すべきだと考えている。だが、原発の弊害が明らかだからといって、「地球温暖化論は原発推進論者の陰謀だ」とする「地球温暖化陰謀論」には全く与することができない。そんなことを言う人は、それこそブッシュ政権か福田政権、あるいは経団連あたりに買収でもされているのではないかと、陰謀論的に勘繰りたくなってしまうほどだ(笑)。
今回は新自由主義や税制について論じた第6章の紹介まで行き着かなかった。最終回となる次回で紹介したいと思う。
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地球温暖化を扱った第3章に続き、第4章「日米蜜月がもたらしたもの」は、地球温暖化問題に消極的で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)を攻撃する米ブッシュ政権に、小泉純一郎首相(当時。以下「コイズミ」と呼称)がいかに協力的だったかを指摘している。環境問題をめぐるヨーロッパとアメリカの対立に対し、コイズミは明らかに米国寄りのスタンスをとった。
ブッシュ政権が「地球温暖化」という言い方自体を嫌ったため、アメリカではこの問題は「気候変動」と称される。そして、許しがたいことにブッシュ政権は科学者たちの研究に介入、妨害を繰り返してきた。気候変動に関する議論を鎮圧しようとするブッシュ政権の試みについて、NASAの科学者ジェームズ・ハンセンは2004年10月26日、アイオワ大学の講演で、「政府で3年以上働いているが、これほど科学者から一般聴衆への情報の流れが審査され制御されたことはいまだかつてない」と語った。
アメリカ以外でも、サウジアラビアや中国、ロシアなどは地球温暖化論議を嫌っていて、昨年のIPCC報告書から「二酸化炭素の排出レベルが気温上昇やその影響にどう関係するかを示す表」を削除させたといくつかのメディアは報じた。
四周を海に囲まれ、食料自給率の低い日本は、本来環境問題に敏感でなければならないのに、コイズミが極端にアメリカ追従の政策をとったことによって、日本は海外メディアから批判的に見られ、世界における政治的・経済的地位を失っていった。しかし、御用メディアと化した日本のマスコミはコイズミを批判するどころか礼賛した。その結果、安倍晋三内閣という史上最低最悪の政権が生まれ、日本の国益をさらに大きく損ねることになった。
著者は、昨年のハイリゲンダム・サミットで安倍晋三が持ち出した「美しい星50」というキモチワルイ名前の提案を、「基準年のないCO2削減目標であり、かつ具体性のない自発的アプローチにすぎない」、「明らかにドイツサミットにおけるメルケル独首相の提案を妨害すし骨抜きにする提案であり、イラクに次ぐブッシュの後方支援の提案に他ならない」と酷評している。そんな提案を、いまだに田原総一朗は絶賛しているのだから、呆れた御用ジャーナリストというほかない。
ブッシュ政権は、「地球温暖化」を「気候変動」と言い換えようとしているが、著名な環境保護主義者ジェレミー・レゲットは、地球温暖化を「地球の過熱、気候の混乱、もしくは気候の崩壊と表現すべき」と主張している。そういえば、4年前の2004年、四国は次々と台風の来襲を受け、多くの死者を出したほか、高松市でも高潮によって2万戸以上が浸水した。この年の夏から秋にかけては、熱帯かと思うような荒々しい天気が続き、ひどい異常気象の連続に参ったものだ。
さて、本の第5章は「環境問題のコストは本当に高いのか?」と題されている。この問いに対し、著者らは「環境保護が経済利益をもたらす」と答えている。実は、私が最近環境エネルギー問題に関心を持つようになったのは、多くの文献が、環境エネルギー技術が経済成長につながると指摘していることによるところが大きい。特に、ドイツや北欧諸国の例がよく言及される。北欧諸国は、社会民主主義をとり、過酷な新自由主義に苦しむ日本国民が最近羨望のまなざしを向けていることはいうまでもない。社会保障と経済成長を両立させているといわれる北欧諸国の成功の秘訣はどこにあるのか。私も興味津々である。
環境問題のコストについては、著者は、昨年のIPCCの報告書が、気候変動の対策コストがさほど高くないことを示し、問題に決着をつけたとしている。そして特筆すべきは、最近、アメリカの高級紙が次々と地球温暖化問題に目を向けるようになったことだ。ところが、日本ではビジネスマンに信頼されているらしい日経新聞が、IPCCに対する懐疑論を紙面に掲載するなどした。
脱線するが、2000年に「巨人(プロ野球・読売ジャイアンツ)が優勝したら景気が良くなる」というナベツネ(渡邉恒雄・読売新聞会長)の妄言を、日経新聞がさも事実であるかのように紙面に載せたことがあるが、この年巨人が優勝した直後にITバブルが崩壊した。巨人が優勝したら景気が急に悪化したのである。これを見て私は日経をあざ笑い、この新聞をイエローペーパーとみなすことにした。私は90年代末から一時この新聞を購読していたのだが、この件がきっかけになったわけではないが、高いだけで中身の薄いこの新聞に見切りをつけて購読をやめた。
ま、日本の低劣なマスコミのことなどどうでも良い。アメリカに話を戻すと、変化し始めたのはアメリカのメディアだけではなく政治家も同じで、民主党の大統領候補バラク・オバマだけではなく、共和党のマケインも温暖化対策に積極的だ。もっとも、マケインの場合は原発推進派らしいから、例の地球温暖化陰謀論が当てはまる数少ない例外に当たるかもしれない。
著者は、「気候変動の科学において、唯一目立った分裂があるのは米国の共和党内部だけのようだ」と皮肉たっぷりに書いている。アメリカの高級紙の論調や民主党の政治家などが、地球温暖化問題への関心を高めている一方で、共和党だけは温暖化議論の正当性を認める議員が2006年には23%、2007年にはさらに減って13%になったという。日本のネット右翼や地球温暖化陰謀論を唱える一部ネット左翼は、米共和党の政治家たちと親和性が高いようだ(笑)。
だが、米共和党でも、カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーのように、西部の4州(ニューメキシコ、オレゴン、ワシントン、アリゾナ)を結集して炭酸ガス排出取引の仕組みを作った人もいる。そして、著者はブッシュまでもが(!)環境派に変わりつつあると指摘している。ブッシュは、政策的には利権の絡みから地球温暖化問題にはきわめて消極的なのだが、私生活ではテキサス州クロフォードにあるブッシュの牧場には地熱ポンプがあり、9万5千リットルの地価貯水池で雨水を集めているそうだ。
いずれにしても、アメリカの環境エネルギー政策は、2009年1月の新大統領就任とともに、劇的に転回されるはずだ。特に、バラク・オバマが大統領になったら、その政策転換はより極端なものになるだろう。ヨーロッパでは、日本会議(平沼赳夫や安倍晋三を擁する日本最大の右翼団体)やネット右翼から目の敵にされているスウェーデンが代替エネルギーにおいて世界のリーダーになっており、最近ではイギリスの台頭もめざましいそうだ。1973年にはスウェーデンはエネルギーの石油依存度は日本と同じ77%だったが、今では大差がついた。また、イギリスはいまや保守党が炭素税の導入を提案している。かつて、新自由主義の先駆者であるマーガレット・サッチャーは、極端な課税反対主義をとっていたが、いまやかつての政策を180度転換しているのだ。しかし日本は、特に安倍晋三や平沼赳夫などに顕著なのだが、大昔のサッチャーカイカクを取り入れようとするアナクロぶりだ。日本のネット左翼の間にも、民主党が社民党と接近するより、平沼一派と接近するのを望む人も多いようだが、たぶんサッチャリズムと親和性の高い人たちなのだろうと想像している(笑)。
第5章の最後で著者は、「それでも原子力頼みの日本」というサブタイトルで、相も変わらず口を開くと原子力しか言わない日本の政策を厳しく批判している。日本のメーカーは、太陽電池生産のシェアを大きく落としており、いまや太陽エネルギー部門は、「技術はヨーロッパにあり、需要はアジアにある」といわれる状況だという。
それなのに、日本はいまだに原子力発電に固執しているのだ。著者は、「原子力発電のロビイストは、研究開発の予算の大部分を確保しており、特に永田町の政治家とつながっているようだ」と書き、それに対し、オクスフォード・リサーチ・グループが「原子力は非常に危険である」うえ、「二酸化炭素排出量の削減に貢献するには不十分だし、貢献できたとしてもそのプロセスは遅い」と指摘していることを対置して紹介している。
私も、原子力発電の推進など百害あって一利なし、現在ある原発はもうどうしようもないけれど、今後新規の原発の建設はすべて中止すべきだと考えている。だが、原発の弊害が明らかだからといって、「地球温暖化論は原発推進論者の陰謀だ」とする「地球温暖化陰謀論」には全く与することができない。そんなことを言う人は、それこそブッシュ政権か福田政権、あるいは経団連あたりに買収でもされているのではないかと、陰謀論的に勘繰りたくなってしまうほどだ(笑)。
今回は新自由主義や税制について論じた第6章の紹介まで行き着かなかった。最終回となる次回で紹介したいと思う。
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