第1章「石油時代の終わり」のリードの文章のあとに、各国の石油依存度、輸入依存度、中東依存度を示す表が出ている。日本は石油依存度が50%、輸入依存度が100%、中東依存度が89%で、どの項目をとってもアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアの他の先進国より依存度が高い。とりわけ中東依存度の高さは群を抜いており、それだけ日本のエネルギー源が高いリスクを抱えていることを示す。
第2章「石油に浮かぶ島」で、日本が1970年代の石油ショックのあと、いったんはエネルギー調達先を多様化させ、石油への依存度を低下させたことになっているが、実は中東依存度は1976年の79.5%から87年には67.9%まで下げながら、その後「市場に任せておけ」という新自由主義政策をとったために再び中東依存度が上昇し(というのは中東の石油が安価だった時代が長く続いたため)、2005年には89.1%まで上がってしまったことを指摘している。これを、中東依存度が24%に過ぎないのに、リスク回避のために中東依存度を下げようとしているアメリカと比較して、日本政府の無策を嘆いている。ってことは、日本はアメリカよりもっと過激な新自由主義国家だということなのだろうか!?
しかも、コイズミと安倍晋三は、イラク戦争に参加し、それが誤りだったと世界のほとんどの国が認識するようになってからも、アメリカを支持し続けた。わざわざエネルギー調達のリスクを高める政策をとってまでブッシュに尻尾を振ったコイズミや安倍こそ、国賊の名にふさわしいだろう。
第3章「地球温暖化?より大きな負の外部性」で、地球温暖化問題が論じられている。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書が2007年に発表されたが、人間の活動によって気候変動が引き起こされていることが科学的に証明できると断言し、化石燃料の消費によって気候変動を起こす温室効果ガス(特に二酸化炭素)が生産されていることは明らかだとした。
報告書は、今世紀中に平均気温が1.1?6.4度上昇し、海面が18?59センチ上昇すると予想しているが、それでも報告書の予想は楽観的に過ぎると見られているのだという。
その理由の一つに、地球温暖化の議論を嫌う米ブッシュ政権が、IPCCにしばしば横ヤリを入れてきたことがあげられる。たとえば、ブッシュ政権は石油会社エクソン・モービルの要請を受けて、IPCC議長だったロバート・ワトソンを議長の座から追う工作をした(2002年解任)。ワトソンは、フロンガスの規制を唱え、オゾンホールの拡大を食い止めるのに貢献した学者である。著者は、これは陰謀論などではなく、米民主党による調査で暴露された事実だとしている。
ちなみに日本と違って、こうした米民主党による暴露は、実行能力のある野党と、政権党を制するための制度化された手段が存在する価値を証明している。政府内の競争と政権党の定期的な交代は、政府の人間に責任を問うための強力で貴重な動機と手段を与える。それは、有力な利益団体から資金が流入している場合は特に不可欠になってくる。
(金子勝、アンドリュー・デウィット著 『環境エネルギー革命』 (アスペクト、2007年) p.120)
この本が書かれたのは昨年の参院選の直前だが、思い出してみると日本の民主党は、選挙で勝ったら国政調査権を発動すると声高に叫んでいた。参院選は民主党の圧勝だったが、国政調査権はその後どうなったのだろうか?
なお、フロンガス規制の件では、1970年代に世界のフロンガスの4分の1を生産していた米デュポンが、1975年に大々的な反フロンガス規制のキャンペーンに乗り出した。彼らは、フロンガスによるオゾンホール拡大には科学的な根拠がない、対策にはコストがかかるなどと主張していたが、実際にフロンガスの使用禁止によってオゾンホールの拡大は食い止められたし、対策にかかるコストも、規制に反対した勢力が主張したよりもはるかに少なく、むしろさらなる損害の拡大を食い止めたと著者は指摘している。
地球温暖化を食い止められると主張する人たちは、フロンガス規制が成功した例をあげて楽観的な展望を示すが、著者らはもう少し悲観的だ。
しかし、事はそう簡単ではない。それは、石油時代の外部性やリスクがこれまでと違って長期にわたるという特質を持つようになり、消費者にせよ供給者にせよ、目先の利益を最大化しようとする者たちにはそれが見えにくいからである。そして、その政治プロセスでは当面の利益を失う政界、経済界がいつでも妨害する側に立つ潜在的可能性を秘めている。
それは、主流の政治経済学的アプローチを無効にしてしまう。新古典派経済学だろうがゲーム理論アプローチだろうが、時間のタームのないアプローチの想定範囲を超えているからだ。時間を超えて全体の利益を考慮に入れる時、モラルハザードを引き起こすのは消費者側ではなく供給者側であり、しかも短期的に供給者側が自己利益の最大化を追求すれば、長期的な結果として社会全体に破滅的損失をもたらしてしまうものなのだ。
(金子勝、アンドリュー・デウィット著 『環境エネルギー革命』 (アスペクト、2007年) p.126-127)
ブッシュ政権は、ワトソンだけではなく、さまざまな国際機関の気に入らない人物をその役職から外そうとしてきた。著者は、
と指摘する。ネオコンたちは、自分たちに従順なグローバル社会を築きたいと考えており、その一方で米国は、主要な世界的機関、特に国連や国際法廷、各種の軍縮協定や京都議定書への関与を弱めていった。
結局、ワトソンの後任のIPCC議長には、インド人のラジェンドラ・パチャウリが就任した。著者は、大気科学を学んだことがないIPCC議長は彼が初めてだった、と皮肉り、先年死去した著名な経営学者・P.F.ドラッカーの言葉を引きながら、下記のように第3章を締めくくっている。
リーダーシップはどんな組織にも必要不可欠だということがわかる。また、あるリーダーの更迭が賛否両論を起こせば、その組織とその組織が属するコミュニティに強力なメッセージを送ってしまうことになるのは常識だろう。リーダーシップが弱まれば、組織も弱くなる。皮肉を込めて言えば、世界がもっとも急を要する危機に直面している時、中心的な国際機関のリーダーシップを弱めるというのはなんと素晴らしい戦略であろうか。
(金子勝、アンドリュー・デウィット著 『環境エネルギー革命』 (アスペクト、2007年) p.129)
ここまでで本の紹介は約半分終わった。このシリーズはあと2回かかると思う。
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