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きまぐれな日々

山口二郎というと、民主党左派のイデオローグで、そのためか保守論壇よりむしろ中道右派や共産党系の言論から批判を浴びることが多い。民主党右派に近い中道右派は、山口は高負担高福祉を主張する純粋な社民主義者で、民主党をそんな方向に持っていったら支持を失うと言う。実際には、山口二郎は福祉国家と新自由主義的国家をともに超える「第三の道」を唱導していた人ではないかと私は思うのだが。また、共産党系の人たちは、山口が消費税率引き上げを主張するのを批判する。現実にはスウェーデンの消費税率は25%、ノルウェーは24%である(但し食料品については両国とも消費税率は12%であり、スウェーデンの場合、食料品、ホテル代、交通費などは12%、書籍や新聞などと文化事業に関わる一部商品やサービスに対しては6%の税率となっている=スウェーデン大使館のHPより)。共産党支持者は、社会民主主義をとる北欧諸国よりさらに平等性の強い、共産主義に近い社会を理想としているのだろうと私は考えている。

なぜこんな前振りを書いたかというと、「世界」3月号に載った山口二郎と宮本太郎(ともに北海道大学)の世論調査を、今ごろブログで紹介しようとしているからだ。「世界」はそろそろ4月号が発売される頃で、1か月も経っているから、すでにブログでも論じられているだろうと思って検索をかけたら、案の定 「世界の片隅でニュースを読む」 に紹介されていた。
http://sekakata.exblog.jp/6797689/

これは、左側から山口を批判する立場に立って書かれたレビューである。ただ、このレビューは消費税増税の是非に論点を絞ったものである。本エントリでは論文に掲載された世論調査自体をじっくり紹介したい。

さて、ようやく本論だが、山口と宮本が行ったのは、「日本人はどのような社会経済システムを望んでいるのか」という世論調査だ。この観点は、マスコミの世論調査からは意外に抜け落ちている。世論調査はRDD法により、サンプル数は全国で1500である。政党支持率は自民党が23.7%、民主党が22.3%と拮抗しており、以下さまざまな設問に対して、全体、自民党支持者、民主党支持者別の回答結果が示されている。

小泉・安倍両政権の改革によって、日本の社会がどうなったかという問いに対しては、「経済的な活力が高まり、豊かさを取り戻した」という選択肢への賛意は、全体で7.8%、自民党支持者でも14.0%に過ぎず、民主党支持者では5.9%である。一方、「貧富の差や都市と地方の格差が広がった」という選択肢には、全体で64.9%、民主党支持者では70.1%、自民党支持者でも58.9%が賛成している。要するに、自民党支持者でさえ、小泉・安倍の「改革」は失敗だったと考えているということだ。

「改善すべき日本型制度」については、「競争原理を導入し、平等の行き過ぎを見直すこと」が全体で10.6%(自民党支持者16.8%、民主党支持者6.4%)、「公的な社会保障を強化する」が全体で36.7%(自民党支持者28.4%、民主党支持者37.5%)となっている。

「生活の脅威」については、「年金制度の破綻」が最多で、全体で55.6%(自民党支持者で51.7%、民主党支持者で60.6%)、次いで「医療の崩壊」が全体で34.5%(自民党支持者で31.1%、民主党支持者で38.4%)、以下、環境破壊(30.7%)、財政赤字(29.1%)、経済の停滞(16.2%)、治安の悪化(15.6%)と続き、「外国の脅威」は挙げられた選択肢の中では最低の7.4%(自民党支持者11.2%、民主党支持者5.6%)に過ぎない。この中で、「経済の停滞」と「治安の悪化」については自民党支持者で高い数字を示すが、「財政赤字」はむしろ民主党支持者の方が数字が高い。

さらに、「日本のあるべき社会像」では、「アメリカのような競争と効率を重視した社会」が全体で6.7%(自民党支持者6.3%、民主党支持者5.5%)、「北欧のような福祉を重視した社会」が全体で58.4%(自民党支持者50.3%、民主党支持者61.3%)、「かつての日本のような終身雇用を重視した社会」が全体で31.5%(自民党支持者41.4%、民主党支持者31.5%)となっている。

ここで非常に面白いのは、アメリカ型の競争社会をよしとする新自由主義的意見を持つ人は、民主党支持者(5.5%)ばかりか自民党支持者(6.3%)までもが全体(6.7%)を下回っており、きわめて少ないことだ。まさか社民党や共産党の支持者がこんな選択肢を選ぶはずがないから、唯一可能な解釈は、42.2%を占める「支持政党なし」の層にこの選択肢を選んだ人が比較的多いということになる。つまり、新自由主義の政治勢力を支えているのは無党派層なのである。自民党支持者で多いのは、北欧型の福祉国家に次いで「かつての日本のような終身雇用制を重視した社会」であって、高年齢層が中心だと思うが、これが保守の保守たるゆえんだと思う。そして、現在の新自由主義政党化した自民党は、もはや彼らの要求にこたえるものではなくなっているのである。

最後が「社会保障の財源」で、「行財政改革を進めるなど国民の負担を増やす以外の方法を採るべき」が最多で全体で44.0%(自民党支持者35.0%、民主党支持者45.9%)、以下、「消費税ではなく、法人税や所得税など裕福な人や企業に負担させるべき」が全体で35.4%(自民党支持者35.4%、民主党支持者37.6%)、「消費税率の引き上げはやむをえない」が全体で17.5%(自民党支持者26.5%、民主党支持者15.3%)と続き、「そもそも今の社会保障で十分」は全体でわずか2.0%(自民党支持者2.3%、民主党支持者1.2%)である。

前掲の「世界の片隅でニュースを読む」は、これをとらえて、山口の主張する消費税引き上げは民意に反すると主張するのだが、順序として行財政改革(但し社会保障削減を伴わない)、法人税引き上げや所得税の累進性の再強化と進み、それでも足りない場合に消費税増税という選択肢が出てくるのではないか。その前に、米国債の売却を行うという選択肢があってしかるべきではあるが。現実問題として、コイズミがやったように、行財政改革は往々にして社会福祉の削減などの公共サービスの低下を伴う。「カイカク」の実態に注意する必要があるのだ。

また、昨日のエントリも触れたが、同じ「世界」3月号に掲載された大瀧雅之が指摘しているように、教育や介護といった民営化に適さない分野の民営化が大きな問題を引き起こしていることを忘れてはならない。教育については、80年代にサッチャーが始めて大失敗に終わった教育カイカクに、四半世紀も経ってから追随しようとした安倍晋三や、その協力者として視察団を率いてイギリスを訪問した平沼赳夫らは大馬鹿者もよいところであって、サッチャーの教育カイカクは教育に市場原理を導入しようとしてイギリスの教育を荒廃させたのである。だから、安倍晋三のみならず平沼赳夫も実質的に新自由主義者であると私は考えている。民主党に平沼一派と組もうとする動きがあるとも噂されているが、とんでもない話だ。

話を山口二郎らの調査結果に戻すと、この世論調査は、誘導尋問的な選択肢が散見されるとはいえ、非常に面白いものだ。民意は新自由主義の社会など全く望んでおらず、旧来自民党的な終身雇用を前提とした社会や北欧的な高福祉社会への指向がきわめて強く、年金問題や医療の問題への関心が高いことがわかる。これらが、昨年の参院選で民主党の圧勝と自民党の惨敗をもたらしたことは明らかだ。但し、民主党支持者はその一方で「大きな政府」への警戒心も今なお強く、そこを「小さな政府」を標榜する新自由主義勢力に突かれているというのが、現在の政治の状況だろう。

参院選の時点では、安倍自民党が新自由主義指向、転向した民主党が福祉国家指向と分かれるかに見えたが、その後福田首相が「カイカク」色を薄めると、「せんたく議連」などという新自由主義色の強い超党派の集団が現れるなど、自民党と民主党が入り乱れた混乱状態が始まり、それに乗じて「改憲」で超党派議連を作る流れまで生じるなど、すっかり混迷した政治状況になった。

何より、新自由主義勢力の後退に焦ったマスコミが、アメリカのサブプライム問題に起因する日本株価の低迷を「福田政権がカイカクを後退させたから株価が下がった」などというデマを垂れ流してまで、新自由主義勢力の応援に必死だ。こんな宣伝にダマされてはならない。


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