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きまぐれな日々

1995年、ノルウェーの作家、ヨースタイン・ゴルデルの書いた哲学入門の本「ソフィーの世界」が日本でベストセラーになったことがあった。これは、もともと1991年に書かれた本だが、94年頃にドイツでベストセラーとなり、そのドイツ語版をもとに、ドイツ文学者の池田香代子さんが翻訳したものである。

私はこの本を2000年の夏休みに読んだのだが、大いにはまった。2つの点で、私の好きな作家・筒井康隆を思い起こさせるところがあったからである。

この作品は、物語仕立てで哲学史を語っていく。これは、1991年に日本でベストセラーになった筒井の「文学部唯野教授」と同じやり方である。そして、物語のちょうど真ん中に、あるトリックが仕掛けられている。これ以上書くとネタバレになるので表現をぼかすが、このトリックはいかにも筒井が好みそうなものだ。

この本の訳者の池田香代子さんは、2002年にヴィクトール・E・フランクルの名著 「夜と霧」の新訳 も手がけている(みすず書房から出版)。この本は、アウシュヴィッツに送られたユダヤ人精神医学者による体験記録書で、1961年刊の霜山徳爾の翻訳(同じくみすず書房から出版)で知られているが、その41年ぶりの新訳になった。

私は新版の出る前年の2001年に霜山氏の手になる旧訳でこの本を読んだので、池田さん訳の新版は持っていないのだが、こういう本の翻訳書を出すことからも想像がつくように、池田さんは反戦・平和の側に立つ方である。

その池田さんの「再話」によって構成されたのが、ベストセラー「世界がもし100人の村だったら」(2001年、マガジンハウス)である。これは、もともと「ネットロア」(インターネットによる民話)であり、発信者不詳の、インターネットを通して広まった物語を、池田さんが再構成したものである。当然、格差社会否定の側に立ったものである。

ところが、6月にフジテレビがこの「世界がもし100人の村だったら」に基づく番組を、あろうことか安倍晋三のプロパガンダとして悪用したのである。

私にはこれがどうしても許せなかった。それが、この記事を書く動機になった。
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