きまぐれな日々

何が欺瞞的といって、北朝鮮問題についてのマスコミ報道ほど欺瞞的なものはないだろう。

アメリカによる北朝鮮のテロ支援国家指定解除なんて、前々から予想されていたし、何も突然決まったわけでもないのに、産経新聞や読売新聞ばかりか、経済紙の日経新聞や左派的とされる朝日新聞に至るまでアメリカ批判の大合唱になったことには、あきれ返ってしまった。

一方、再三指摘するように、自民党の政治家たちは、安倍晋三のような一部の例外的極右を除いてすでに対北朝鮮の政策を転換している。先日、安倍晋三と山崎拓が見苦しい言い争いをしていたが、理は明らかに山崎拓の側にある。そして、そんなことはマスコミ各社は十分承知のはずだ。近い将来、彼らも社論を大きく転換させることになるだろう。それがミエミエなのに、各社はアメリカを批判し、テロ国家指定解除までの45日間にアメリカがこれを撤回することを期待する、などと書く。6月29日に放送されたテレビ朝日「サンデープロジェクト」で司会の田原総一朗は、「そんなのあり得ない」と一笑に付した。

6月28日付エントリで、私は『世界』7月号に掲載された田原の文章を紹介したが、その冒頭に、昨年秋に北朝鮮を訪問した田原が朝日新聞に書いた文章が引用されている。

"北朝鮮をめぐる世界情勢が大きく変わりつつある中で、日本との関係だけが凍りついて、置き去りにされているという感じが強い"

(『世界』 2008年7月号掲載 田原総一朗「水面下の交渉は始まっている」より)


私は何も、拉致問題をなおざりにせよと言っているのではない。拉致問題は北朝鮮の国家による犯罪だ。だが、北朝鮮はすでに2002年の日朝首謀会談の席上で小泉首相(当時)に拉致問題について謝罪している。もちろん未解決の部分は多いが、北朝鮮が拉致を認めるや、日本で「反北朝鮮」の世論が高まり、安倍晋三がそれに乗じて対北強硬路線を唱え、それが国民の支持を得た。そして、安倍政権が成立した2006年には、北朝鮮のミサイル発射と核実験、それに安倍政権が発動した制裁措置によって、日朝間の緊張関係が一気に高まった。しかし、安倍内閣の強硬外交は何の成果もあげることができず、完全に行き詰まったのである。福田内閣は、いまやはっきりと対北政策の方向転換をしようとしている。それを、「対米隷属のあらわれだ」と評するむきもあるが、田原の言うように、世界情勢全体が大きく変わっているのである。アメリカは国内の金融バブル崩壊と、手を引くわけには行かない中東を抱えている。共和党政権はもちろん、オバマも明確にイスラエルに傾斜した発言をしており、中東への介入は今後も続くが、アメリカにはもはや極東に過大なコストをかける余力はない。だから、安倍のように日米同盟を利用して軍拡をたくらむような政治家は、アメリカにとってもいい迷惑なのである。

それに、日本はなんといっても過去の植民地支配を清算しなければならない。拉致問題だけ声高に叫んで、従軍慰安婦が存在したことも認めない、そんな身勝手な行き方は、国際社会では通用しない。昨年、従軍慰安婦の件で安倍がブッシュに謝罪させられたことを思い出す必要がある。

不思議なことに、安倍政権の頃は私が書いているような意見は、リベラル・左派のブログではごく当たり前だったのだが、外交的にはハト派色を見せる福田政権に代わって、なぜかブログ言論においては左派と極右が手を結ぼうとする動きが強まり、安倍や平沼赳夫のような極右に対する批判が弱まっている。これは、私には全く理解できないことだ。

ためしに、『世界』7月号に掲載された共同提言「対北政策の転換を」を読んでみると良い。提言者は、石坂浩一、川崎哲、姜尚中、木宮正史、小森陽一、清水澄子、田中宏、高崎宗司、水野直樹、山口二郎、山室英男、和田春樹の12氏である。

この提言は5章、14ページにわたるものだが、最後の「まとめ」から一部引用する。

 日朝国交正常化は日本と北朝鮮の関係を正常化するものである。その意味では日本がアジア諸国との間で二国間の過去の関係を清算することを長くつづけてきた努力の最後をなすものである。しかし、いまや日朝国交正常化は核ミサイル問題の解決を課題にふくむことによって、東北アジア六ヵ国の共通の関心事になっている。アメリカ、韓国、中国、ロシアがその成功をのぞんでいる。

(中略)

 いまではすべての国が六者協議の前進を願い、日本が拉致問題ばかりに目を奪われた外交から脱して、日朝交渉を軌道に戻すことを願っている。米韓中露の指導者は日本国の代表者に拉致問題解決への協力を求められるたびに、表面的には共感する姿勢を示しながら、それは日本が自分で交渉して解決するしかないと嘆息しているだろう。

 いまは、むしろ日米間の乖離を露出して解決を妨げないようにするためにも、米朝交渉の後追いをする受動的な外交姿勢を改める必要がある。日朝国交正常化に積極的になることが、歴史認識をめぐってなお問題を抱えている日韓両国民の未来に向けた協力をも可能にするのである。

 日本は日朝国交正常化交渉を真剣に進めることを通じて、核・ミサイル問題の解決に貢献し、六者協議の中でイニシアティヴを発揮することができる。そうなれば、遠からず、広島で六者協議の会合を開くことも可能になるだろう。北朝鮮の代表に広島の原爆資料館を見てもらうことは意義深いことである。

 六者協議の二〇〇五年九月一七日共同声明は、北朝鮮の核問題の解決の先には、東北アジア六ヵ国の安全保障協力のしくみを考えることを明記している。朝鮮半島の平和と協力は東北アジアの平和と協力の軸であり、カナメである。日朝国交正常化は、まさに日本がこの地域の未来の構築に積極的に、主体的に、戦略的に関与していく大きなステップを踏み出すことなのである。(後略)

(『世界』 2008年7月号掲載 「<共同提言> 対北政策の転換を」より)


以上は、決して「進歩的文化人」の理想論などではない。同じ『世界』7月号に掲載された、自民党衆議院国家基本政策委員会委員長である衛藤征士郎へのインタビューで、衛藤は、自民党の「朝鮮半島問題小委員会」設立の目的および意思は、ずばり日朝国交正常化にあると明言している。さらに、

戦前の砲艦外交ならいざ知らず、二一世紀の今日にあって、外交とか外交交渉というものはすべて「対話」です。だから、圧力や制裁を、わざわざ目の前に品揃えをして見せる必要はない。拉致問題にしろ、核の問題にしろ、あるいはミサイルの問題にしろ、いかにわれわれが成果を手中におさめることができるか、それが外交なのです。

と語っている。そして、衛藤は、戦前の日本が行った侵略行為に十分な注意を払いつつ交渉を進めると明言しているのだ。

衛藤は福田康夫首相と親しい。衛藤の発言は、福田首相の意向に沿ったものだろう。今後、日本の対北朝鮮政策は、劇的に転換されるはずだ。拉致問題でも大きな進展があるかもしれない。


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