いや、朝日だけではない。スポーツ紙の記事でも、たとえば日刊スポーツも(朝日系の新聞だが)11月8日の紙面に下記記事を掲載していた。以下引用する。
やっぱりヒラリー氏優勢も「隠れトランプ票」がカギ
[2016年11月8日9時34分 紙面から]
米大統領選は日本時間のあす9日、いよいよ投開票される。民主党のヒラリー・クリントン元国務長官(69)と共和党のドナルド・トランプ氏(70)が最終盤まで大接戦となり、米メディアも情勢を見通せない中で、最後に勝負の鍵を握るのは、「隠れトランプ票」になるとみられる。
最終盤の大接戦の要因になったクリントン氏の私用メール問題で、再捜査を行っていた連邦捜査局(FBI)のコミー長官は6日、従来の方針通り、訴追しない方針を表明。クリントン氏の支持率は、FBIの再捜査着手後に急落し、トランプ氏に逆転された調査もあったが、6日の主な世論調査は、クリントン氏が4ポイント前後リード。政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」集計の平均支持率は、6日時点でクリントン氏が1・8ポイント上回り前日よりやや差を広げた。
しかし、米国民には世論調査にトランプ氏支持を明言しない「隠れトランプ票」が、一定の割合で存在するとされる。トランプ氏は、FBIの訴追見送りに関し、ミネソタ州の演説で「クリントン氏は不正な制度に守られている」と批判。逃げ切りを狙うクリントン氏に対し「歴史的大逆転」への望みを捨ててはいない。
(日刊スポーツより)
要するに、本当はトランプ支持なのだがそれを公言できない人たちが多くいて、彼らが大統領選のメディア予想を覆した。アメリカのメディアは民主党支持系ばかりか共和党支持系の保守系メディアまでも、トランプ不支持を打ち出していたから、そんなメディアの調査に本音など答えられない、という心理があったに違いない。
だからトランプ当選は大いにあり得ると思ったのだが、日本では藤原帰一だのの「権威ある」(?)論客がトランプ当選間違いなしと断言し、それがテレビの電波に乗ったりしたため、クリントン勝利を信じて疑わない視聴者が続出したのだろう。
さらに私は、トランプが勝ったら日本の「リベラル」の一部、特に「小沢信者」系やそれに親和性を持つ人たちが喜ぶだろうなと予想していたが、それも予想通りだった。
ヒラリー・クリントンの敗因が、手のつけられないほど格差が拡大したアメリカにおいてかつてなく「反エスタブリッシュメント」感情が高まったことにあることは誰もが指摘することだが、それをトランプが解決することなどあり得ない。
それは、トランプが取り入ったのが没落した白人労働者層であることからも明らかだろう。トランプは白人労働者層を救済するために「強いアメリカをトリモロス」と言う。その手段として、移民や国内のマイノリティを排除する。アメリカ社会の分断をさらに強めるだけになるのは目に見えている。
9月9日付朝日新聞に翻訳が掲載された、ポール・クルーグマンのニューヨークタイムスのコラムによると、トランプというより共和党は鉛汚染の対策に消極的であり、鉛汚染対策に積極的なクリントン(民主党)の政策とは正反対であって、それがトランプや共和党が企業の要望に添った政策をとるためだとのことだ。そんな政治家、そんな政党の政権がまともな政策をやるはずがないのは当たり前だろう。
クルーグマンはさらに先月、ハフィントンポストのインタビューに答えてトランプを痛烈に批判していた。
ポール・クルーグマンがトランプ氏批判「優れたビジネスマンは、マクロ経済の知識ない」
The Huffington Post | 執筆者: Alexander C. Kaufman
投稿日: 2016年10月15日 16時58分 JST 更新: 2016年10月15日 17時02分 JST
アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏が支持されるのは、誇張する形で自由貿易に反対する彼が、アメリカ国内の雇用市場を改善してくれるのではという期待につながっているからだ、という分析がある。しかし、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏はこうした分析を一刀両断する。
クルーグマン氏によると、トランプ氏は、経済的な困難を移民や有色人種のせいにする、白人低所得者層の人種的な緊張感を利用しているのだという。
「経済的不安は、誰がトランプ支持者かを見分ける最良の指標ではない」と、クルーグマン氏は8月にブルームバーグTVのインタビューで答えている。「人種的対立が、トランプ支持者を見分ける格好の目印だ」
リアリティ番組のスターだったトランプ氏は、自身が「労働者階級の大資産家」であり、そのファシスト的なスタイルと、これまでの伝統的な大統領のあり方を否定することで、自身が一般大衆の声を代弁することになる、とぶちあげている。ここ何十年かで雇用が海外に流出し、苦しんでいる工場労働者たちを守ると、彼は誓っている。不景気にあえぐ鉱山業界の雇用を促進するため、最も環境汚染度が高い化石燃料である石炭への制約を減らすとも明言している。
トランプ氏はFoxテレビの番組の「Foxビジネス」で、民主党候補のヒラリー・クリントン氏が公約に掲げた「アメリカ全土で老朽化したインフラの再建費2750億ドル」を「少なくとも倍増させる」と語っている。この公約は、政府歳出を抑えるという共和党正統派の理念とは決別することを宣言したものだ。クルーグマン氏は、マイナス実質金利が政府の借入を利益事業にしている現実があるのにもかかわらず、トランプ氏の公約の実現性に疑問を呈した。
「彼は、『インフラのために借入するべきだ』と誰かが言ったのを聞いていた。そこでテレビ番組に出て、『それが今やるべきことだ』と言っている」と、クルーグマンは言った。
資産と派手な不動産業界での経歴を誇示するトランプ氏は(両方とも父親からの相続だ)、ほとんどの職歴が公的機関であるクリントンよりも、自分の方が優秀な経済のマネジャーになるのは当たり前だと主張している。
「私たちは、ビジネスでの経験が経済政策を回していくのに重要だ、という錯覚を持っている。しかしそれらは、全くの別物だ」と、クルーグマン氏は述べた。「優れたビジネスマンは一般的に、マクロ経済学について何の知識もない」
トランプは、環太平洋連携協定(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)といった国際貿易協定を廃止し、メキシコと中国からの輸入品に巨額の関税を課すと公約しているが、それは貿易紛争の火種となりかねない。ムーディーズ・アナリスティクスの報告書によると、1100万人の不法移民を強制退去させ、効果が疑わしい巨大な壁をアメリカ・メキシコ国境に建設するという公約にかかる支出を合算すると、トランプ氏の経済政策はアメリカに大恐慌以来の長期的な不況をもたらす可能性がある。
「彼の中国バッシング、そして『中国の貿易商品がアメリカ経済停滞の原因なのだ』という考えは間違いだ」とクルーグマン氏は言う。「今まさに進行しているのは、何十年にもわたって共和党への投票を促してきた、こうした隠れた本音が、表面化してきているだけだと思われる」
実際に、トランプ氏が大統領選の候補者となったことで、白人優位主義、反ユダヤ主義など、政治のメインストリームでは長らくタブー視されてきた声を増幅させた。白人優位主義の差別団体「クー・クラックス・クラン」(KKK)の元指導者デビッド・デューク氏は、トランプ氏支持を表明した後、アメリカ上院のルイジアナ選挙区に自ら立候補すると発表した。トランプファンとおぼしき集団が、ユダヤ人ジャーナリストに対してサイバー攻撃を企て、伝統的なユダヤ人の名字を持つ人たちを判別し、嫌がらせの対象にしやすいようにするGoogle Chromeの拡張機能を開発するまでに至っている。トランプ氏が長年にわたって女性に対し非常に下品な発言を繰り返していたことは、2015年に初めて明るみに出た。Foxニュースの司会者ミーガン・ケリー氏が、予備選討論会の序盤で彼に答えづらい質問を浴びせたのは、「彼女が生理中だったからだ」と、トランプは発言している。
有色人種、宗教的マイノリティ、女性を侮辱するコメントは数え切れないほどあるのに、トランプ氏は自身が人種差別主義者でも、ミソジニスト(女性嫌悪)でもないと主張しており、メディアは経歴のあら捜しをすることに執着していると攻撃している。
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ハフポストUS版編注:ドナルド・トランプ氏は世界に16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し発言してきた、嘘ばかりつき、極度に外国人を嫌い、人種差別主義者、ミソジニスト(女性蔑視の人たち)、バーサー(オバマ大統領の出生地はアメリカではないと主張する人たち)として知られる人物である。
(ハフィントンポストより)
いやはや、アメリカという国はとんでもない男を次期大統領に選んでしまった。
私には、トランプという男は日本にもとんでもない災厄をもたらすとしか思えない。それを「クリントンよりはマシ」とする日本の「リベラル」(特に「小沢信者」系)は、いつものことながら「なんて浅はかなのか」と呆れるほかない。そんな人たちが、鳥越俊太郎に投票するくらいなら小池百合子の方がマシだ、などと言っていたのだろう。
そう、東京都知事選で小池百合子に投票した人たちには、トランプに投票したアメリカ人を笑う資格はないと思う。今回の大統領選は、消去法でいえば「鼻をつまんでクリントン」しかなかったと、ヒラリー・クリントンに好感など全然持たない私は思ったのだった。
絶対に間違いないことは、「反エスタブリッシュメント」の有権者の心情から生まれたトランプが、アメリカ社会の格差をさらに増すことだ。それは、トランプが反エスタブリッシュメント層の一部に過ぎない白人労働者層にウケの良いことしか言ってこなかったことからも明らかだが、トランプはその白人労働者層を救済することさえ絶対にできないと私は確信している。そんな男をなぜ日本の括弧付き「リベラル」たちは「クリントンよりマシ」などと、クリントンとの比較という限定つきとはいえ「歓迎」するのだろうか。開いた口がふさがらない。
最後に、トランプが大統領になったところで安倍晋三は何も困らないだろうとも指摘しておく。TPPは頓挫するだろうが、かつて自民党が野党時代に稲田朋美が「反TPPの急先鋒」であったことからも明らかなように、自民党の極右政治家たちにとってTPPに力を入れる契機はもともとなかった。自動車産業などの日本の財界からの強い要望で、国会で強行採決ほどの強硬さで推進していたに過ぎなかった。なお、TPPの発効が絶望的になってからも国会で関連法案を無理矢理に通す姿からは、政治を決める最大の力は惰性だという確信をさらに強める喜劇だった。
安倍晋三最大の野望である「憲法改正」は、トランプの大統領就任によって、クリントン政権が誕生した場合と比較して格段にやりやすくなった。普天間基地の辺野古移設問題に関しても、トランプは反基地派・反安倍政権派の期待するような動きなど間違ってもしてくれないし、いわゆる「思いやり予算」増額の要求を、安倍晋三は易々と受け入れてしまうだろう。
それで安倍政権の支持率が下がればまだ良いのだが、そんなことさえ期待できないのが今の日本だと思うと、暗さは増すばかりの今日この頃なのである。